台湾ひとり旅② ガジュマル

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榕樹ガジュマルの気根は紐のカーテン  その下で朝の体操をするおじさん(淡水にて)

絞殺木という恐ろしい名で呼ばれる榕アコウは高知にもあるが、空中に牛の尻尾みたいな気根を垂らすガジュマルは見当たらない。この熱帯.亜熱帯性植物の北限は鹿児島あたりなのだろうか、ぼくが初めてガシュマルを見たのは屋久島の友人を訪ねたときだ。

以来この木の虜になって南の島をバイクで走り回った。奄美大島ではそこら中で見かけるし徳之島には道を跨いで巨大な空間を作った観光名所もある。沖縄本島では御嶽(うたき)に付き物の樹木であるし勿論西表島波照間島にも自生している。

しかし国の南北を北回帰線が切り取って熱帯と亜熱帯に別れる台湾では樹の勢いが違う。台北の大通りでは並木に使われ、街なかの公園では散策する人々に木陰を提供する暮らしの一部だ。高知でいえば神社仏閣に神韻を帯びさせる楠の巨木のようなものだろう。

空から降りてきた根っこが土に触れると細い幹になり上と下に緊張関係が生れる。それが何本も重なり互いに結びついて複雑なトラス構造をつくると地震にも台風にも負けない要塞が完成する。降り注ぐ光を緑の屋根が吸収するのでガジュマルの根元は昼なお暗い。

むかしHITACHIの宣伝にあった「この木なんの木」くらいに成長するとそれ自体がひとつの宇宙だ。鳥や獣を育む怪しげなお屋敷は、目玉のお父さんを乗せたゲゲケの鬼太郎が下駄を鳴らして戻っても違和感がないだろう。

とかく子供は木に登りたがる。ガジュマルの巨木を見ると大人も子供になる。かく言うわたしも屋久島南部栗生の巨樹に登って得意になっていると、下から見上げてにやにやしていた友人が、彼の友人である「CWニコルもそこに登って嬉しそうだったぜ」とか。ヒトの祖先がサルだったことを証明するよい事例ではあるまいか。

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淡水の浜辺 ガジュマルの東屋で憩う地元の人たち 修学旅行で中学生を連れて行ったら悪童どもが われ勝ちにぶら下がりそうな牛の尻尾が揺れる 女生徒に囃されて尻餅を撞くやつがいるかも

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ガジュマルの向こうは その昔オランダ人が出入りした淡水河

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ガジュマルの根元で何かを考える少女と獣たち

蛇足ながら、ガジュマルと同じクワ科の榕アコウは高知にもある。世界ジオパーク高知県室戸岬では蛸の怪物が岩間を渡るように長い足を伸ばして観光客を喜ばせる。足摺岬の手前の黒潮がぶつかる土佐清水市松尾には、元々あった樹木を外側から締めつけて滅ぼし、中を空洞化して立ち上がるアコウの巨樹がある。

頸が痛くなるのを我慢して見上げると樹冠が辺り一帯の光を遮るものだから下には湿り気を帯びた日陰の空間がつくられて怪しい。沖縄の人なら祠のひとつも置いて拝みそうなところだ。aiちゃんご存じなければぜひ一度!


171219記