台湾ひとり旅⑤ 台北101

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タケノコ模様で有名な台北101超高層ビル。デザインは台湾人。施工は熊谷組東芝の高速エレベーターであっという間に101階、地上508mの高さに運ばれる。

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てっぺんは土佐のチベット(地元の人はスイスと言う)=梼原町の標高だ。気温は100mで0.6度下がるから地上より3度低い。気圧は100mで10㍱下がるので下が1013㍱なら上は963㍱→気圧で言えば台風なみだ。高速エレベーターで一気に引き上げられるうちに脳の血が下がったか、それとも低い気圧に反応してか、目眩というほどではないが妙に頭がすかすかした。

f:id:sakaesukemura:20190615143008j:plain最上層に設置されたダンパー(制震装置)
太いワイヤーで吊られた巨大な鉄球をサスペンション(懸架装置)が支える。
技術の結晶は形として美しい。

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最上階から見た台北の街。東京の人には珍しくもない風景だろうが、この下に人間がひしめき、毛細血管のごとく電気ガス水道が引かれ、凄まじい数の車が走り、あらゆる地点を電波が結ぶ。ぼくが生れた1950年代の世界人口はおよそ25億人であったが、わずかな期間に50億人が追加され、2017年の推定人口は75億人となった。2050年に93億人、2100年には112億人に達すると予測される。文明史で言えば瞬きするほどの時間に人類は恐ろしく複雑な世界を創ったわけだ。昔の長屋はヨコに広がっていたが、平地面積が足りなくなってタテに伸びた。小学生の帰り道「おまえんちどこだ?」と聞かれた子が、空を指さして「あそこ」と応える。渡り鳥でも易々とは上がれない高みに構造物を置いた人類は今まじめに宇宙エレベーターの研究をしている。火星移住は冗談だろうがいずれ土地と人口の限界がくる。

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奇妙に捩じれた中央のビルは建築家が意表をつく設計でコンペを勝ち抜こうとしたのか、それともバルコニーに多くの光を受けるため合理性を追求したのだろうか。上層階を下から支えるのではなく、肩を怒らせた巨人が両手で吊り下げる構造は素人目にも興味深い。じっと見つめているとビルが回転力をもって舞い上がりそうだ。こんなデザインを思いついた設計者は偉い。それをやってのけた施工者も凄い。巨億を投じた施主は目をぎらぎらさせて完成を待ったことだろう。科学は愉しむもの、技術は享受されるものだ。だが一方で科学/技術の進展が人類に幸福ばかりもたらしたわけではないことを誰もが知っている。そんなことを話しながら「この文明はいつまで続くのでしょうね」と呟いたら、友人は「これって文明と呼べるのだろうか」と独りごちた。

180129記