海事つれづれ五目めし200501 上ノ加江港4 蜂もいろいろ

 

        

 

 

f:id:sakaesukemura:20200501095821j:plain

蜂の巣箱を誘因蘭キンリョウヘンが挟む200419

ハチは西洋ミツバチと日本ミツバチに大きく二分類されます。西洋ミツバチは長く人間に飼育され家畜化したそうですが、日本ミツバチには「逃亡癖」があり思春期の中学生みたいによく分からない理由でぷいと出たきり戻らないとか。両者とも蜜を採る蜂として一長一短あり飼育家は苦労が絶えないのだそうです。

 

そのミツバチを特定の蘭で誘因するお話を、借用したビニールハウスの改造中、たまたま出会った蘭の研究家に伺いました。ナスやトマトのハウス農家は受粉の媒介にマルハナバチを使いますが、気まぐれなミツバチを蘭で寄せるなどという話は聞いたことがなく失礼ながら、ほんまかいなと警戒しつつ耳を傾けたことでした。作業中のハウスに腰を下ろし、蘭のこと、蜂のこと、ネパールにある研究所のこと、ブラジルで成功した一番弟子が招いてくれたことなど退職前の仕事時代には訊くことのなかった異業種の興味深いお話を伺いました。

 

後日研究所を訪ねると蘭小屋と呼ぶには大きなビニールハウスに多種多様な蘭がびっしり並んでいました。かつて南方熊楠の本を読んでいたとき梛木蘭ナギランの話が出てきたことを思い出し、メジャーな蘭ではないはずだからどうなのかなと思いつつあえて問うたらすっと見せてくれました。専門家というのはどんなことでも瞬間反応してくれるものです。業界では有名な方なのでネットで検索すればすぐ分かりますが、勝手にお名前を掲示するのは控えます。

 

 

f:id:sakaesukemura:20200501095856j:plain

巣箱の入口でホバリングするミツバチ200419

そのことが頭にあったので上ノ加江の農地で両脇に蘭をぶら下げた養蜂箱を見、あの話はこれかと思い当たりました。田舎道を歩いているとよく崖に置かれた養蜂箱を見かけますが、蘭とセットの蜂の箱を見たのは初めてです。

 

ぼくが大学を出てふらふらしていた頃だから1970年代、高知では蘭がバブルでした。特定の蘭が白木谷というところにあり野生種が徹底的に探され、山は荒れ、ホルモンがどうとかで土まで持ち去られる始末でした。当時ぼくは大学商学部を出た友人に雇われて学習塾で教えていたのですが、何かの拍子に「蘭という花の価値」について問われたことを覚えています。蘭の花は優雅で繊細で美しいからみんなが大金を惜しまないのだろうと素朴に考えていた自分がバカでした。

 

あのとき彼はケインズ美人投票「投票者は自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく平均的に美人と思われる人へ投票する」という投資家の行動パターンについて論じたかったのでしょう。しかしオレが相手では話にならなくてがっかりしたのではなかったか、そこから派生してオランダのチューリップバブルに話題が飛んだりすると豊かな時間を愉しめたはずですが、無知なる者にわざわいあれでした。

 

洋蘭が厚化粧の美人なら寒蘭は楚々とした少女のような花です。好みは人それぞれ花はどんな花でも美しく蘭もまた誰の心にも眠る憧れの玉手箱を開いてくれるものですが、キンリョウヘンという洋蘭には、抽象的な美ではなく、蜂を集めて蜜を採る実利的な効果があり、ひと言でランと呼んでもいろいろだなと思ったことでした。

 

 

f:id:sakaesukemura:20200501095930j:plain

ハウスのクロマルハナバチ151212

トマトの花をご存じでしょうか?  菜の花のような黄色い小さな花を咲かせます。日本の子どもは「菜の葉に飽いたら桜にとまれ」だなんて不倫を匂わせる歌をならいますが、ずんぐりむっくりのクロマルハナバチはトマトの花の「花から花へ」とまったり遊んだり、たまにサボタージュしたヤツがトマト箱詰め担当のぼくの手元で休んだりします。大人しくて可愛い蜂なのですが、在来種保護のため外部環境に放出してはならないという農業ルールがあり、お別れの際はとても気の毒なことになります。

 

 

f:id:sakaesukemura:20200501100010j:plain

 

強く齧ると成長したトマトの実に傷が残るのでそっと頼むよ151212

蜂は蜜を求め、花は受粉のためにWin Winの関係が成立すると言えば、それもひとつの真実なのでしょうけれど、つくづくこの世のいのちの仕組みは不思議です。太陽から絶妙の距離を置く地球という惑星に蜂と花が生れ、両者に信じがたい関係式が成り立つのはなぜか、とてもじゃないがドローンを揚げビデオをスマホで送ってどや凄いだろといったレベルの話ではありません。科学の尖端で競う研究者はある日「神が見える」などと、粗雑な思考しかできない人にはオカルトかよと斬って棄てられそうな言葉を呟くそうですが、まだ説明されていない摩訶不思議な存在がぼくらの足元には無限にわだかまっています。

 

蛇足ながら、夏の日にふと書斎を見上げるとお尻が絵に描いたように縞々のスズメバチが天井に30数匹もとまっていました。たまに孤独な脚長蜂が迷い込んでくることはありますが、スズメバチの群れとなると話は別です。暑いから涼みにきたのか、分蜂先を探していたのかわかりませんが、こいつはヤバイのでどうしたものかと考えた末、部屋を閉め切って燻蒸剤を焚きました。ガラス窓にへばりついて落下し転がった黄色雀蜂の姿がやや哀れでしたが、こいつとムカデはちょっとねです。

 

そのあと家の周りを点検すると窓際にソフトボールより一回り大きいズズメバチの巣を見付けました。ネットを検索しているうちにスズメバチの駆除請け合い業まであることを知りましたが、蜂ごときに何万円も払うのは嫌なのでカッパ長靴ゴム手袋を身にまとい手作りネットを頭にかぶって「喰らえゴキブリ凍殺ジェット」の冷気スプレーで瞬殺しました。可哀相な気もしますが、蜂もいろいろ命もいろいろです。

 

 

f:id:sakaesukemura:20200501100148j:plain

上ノ加江漁港200419

五目釣りとは、特定の魚を目的にせず、釣れた魚を対象魚とする至っておおらかな釣りのことです。「海事つれづれ五目めし」と名付けたのは「渚の温泉野郎」の真似をして釣れた魚をその場で五目飯にしてやろう、できることならあの奇抜な人工温泉も体験してみたいと考えてのこと。ひと通り道具は揃えたのですが、仕事休みと海の状況がぴたりと一致する日は滅多になくてまだ実現していません。向いの港から出航し手前の海でルアーを引こうと思っていますが、子ども騙しの疑似餌に魚が食いつくのだろうかとはなはだ疑問なのですけども、釣れなくても景色はきれいだし、写真は撮れるし、非常事態宣言が出たからと言ってここまで追いかけて来て文句を言う人もいないだろうということで近々挑戦します。

これで上ノ加江港の段は終わりです

200501記

 

 

 

追記

さきほど福島県大熊町で除染作業をしている知り合いから電話がありました。津波放射能、コロナと大災害が続くフクシマは大変です。なぜかメディアは人命優先を疫学的に強調しますが、仕事あっての命でもあるわけで、視聴者に判断材料を与える合理的なニュースをバランス良く流してもらいたいものです。