四万十町小鶴津170428
観光客がどやどやっとやって来たらイヤやなと思う海岸が高知にはいくつかあります。ここはそのひとつ四万十町(旧窪川町)小鶴津の海岸です。何思うわけでもなくバイクを走らせているうちにたどり着き、おっと高知にこんな海があったのかと美しさに目を瞠りました。人影も電線もなく澄みきった青とほぼ手つかずの緑が広がる光景はそうたくさんあるものではないです。
小鶴津に向う道路脇の看板170428
看板はシュードタキライト=震源断層=天然記念物の黒い筋です。地震で断層面に摩擦熱が生じ岩石がガラス化した写真だそうですが、石を観るには熟練の技が要り、仮に現場で説明を受けても素人にはフツーの岩とどこが違うのか分からないかも知れません。注意書きには「この現場に降りていくのは非常に危険です。安全なルートはありません」とあります。ヤバそうだなと思いつつ行くなと言われたら行きたくなるのが人情で小道の入口に置かれた通行禁止の衝立をそっと動かしました。
小鶴津の港に向う断崖170428
このような断崖に細い道が引かれ至る所に落石の現場があります。みはるかす青海原の底には南海トラフが控え、沖から迫るフィリピン海プレートは沈降し、耐えきれず跳ね上がったとき東日本大震災なみの津波が押し寄せるだろうと言われます。3.11以来、高知の沿岸には至る所に避難タワーが立ち、高台に避難所が造られました。各所に置かれた浸水予測図は白波を立てて迫るあの日のビデオを想起させます。
折しも高知県黒潮町(旧大方町)では来るべき津波に備え標高27m地点に庁舎の高台移転が進行中でしたが、そこへ内閣府がシミュレートした津波の高さ日本一34mのお墨付きが届いたものだから一番が大好きなマスコミがどっさり集まり町長は頭を抱えたという冗談みたいな話があります。ともあれ庁舎は完成し、小さな町には立派すぎるパイパスが山手を走り、海岸の松林に沿う民家の中に違和感むき出しの避難タワーが立ち上がって旧大方町の面影は薄れました。
高知県は太平洋にむけて室戸岬と足摺岬が両手を広げ、津波さんいらっしゃいという地形をしています。世界ジオパークの室戸は地震学者を興奮させる地質の宝庫ですが、揺れて5分後に津波が到達すると言われた住民はどうすればよいのか、避難行動とは別の哲学が要るだろうというのが専らの噂です。
地震の化石とも言えるシュードタキライトは、この断崖のどこかにありますが、べた凪ぎの日でもわがゴムボート横浪桜丸で上陸するには覚悟と体力が要りそうです。高知市民大学で断層に関する講演をしてくれた理工学部教授が、昔の高知大学には地学科という学問追求の場があったけれども今は「地球環境防災学科」と名を変え、目的限定の実用学科になったと苦笑いしていました。時代の波は大学の学科名にまで影響を及ぼしているようです。防災の専門家には危険覚悟でこの崖っぷちを歩いてもらわねばなりませんが、興味本位の門外漢はお呼びじゃないなと思いました。
200619記 つづく
高知の今
黒潮町小鶴津の廃屋の垣に喇叭を吊るしたアサガオ状の花200608
黒潮町小鶴津 カンナの花は夏の花です200608
むかし四万十市(旧中村市)に住んでいたころチャリで足摺岬に向かい下ノ加江でぶちこけました。見上げたところに赤いカンナが咲いており、以来この花を見るたび掌の血液がダブって思い出されます^^!