海事つれづれ五目めし200701 渚の原子力5 噴火リスク

 

 

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阿蘇山中岳からの噴煙 141130

愛媛県には神代の昔から道後温泉があります。が、あれは非火山性の湯であり、別府や阿蘇みたいに高温の湯が惜しげもなく湧き出るというわけではありません。なぜか四国には火山もなければちゃんとした温泉もなく、安全ではあり寂しくもありという土地柄です。高知の温泉は冷泉を沸かしたものですが、さいわい温泉法なるものが曖昧模糊としており、まあどこだって1000メートルも掘れば水は出る。分析すれば有り難い成分も見つかるというワケで遠いところから高知の温泉を求めて旅に出る人はいないでしょう。九州から北海道まで日本の背骨は火山だらけなのになぜ四国に火山がないのか不思議でなりません。

 

山のてっぺんが火を吹く光景を写真やビデオで見たことはありますが、現場を知らない者が静止画や動画を見せられても実感が湧きません。映像は現場を思い出す道具でしかなく、まずは自分の目で見るべし。上の写真は噴火ニュースを見て一念発起し、阿蘇の麓で車中泊した早朝の一枚です。SLみたいな煙が天翔ける龍のようにも見えるから中岳ドラゴンと名付けひとりで悦に入ってます。

 

 

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阿蘇中岳の噴火 141130

ビデオをアップしようと思いましたが、

どうやっても動いてくれません(汗!

 

 

勢いよく吹き出た火山灰は4000mほど上昇し、遠くから見ると広々とした阿蘇の大地に景を与えていました。多少の危険はあるのでしょうが、草千里の周辺に車を停めた観光客は遠方に湧く噴煙を見て嬉しそうでした。すなわち個別の山から煙が昇るていどならとりたてて人間活動に影響はありません。が、その阿蘇中岳をぐるりと囲む外輪山の内側に阿蘇市があり高森町があり、その広大な面積が大噴火口すなわち阿蘇カルデラを形成しています。したがって住民の足元にはマグマが大規模に滞留しており、これが「破局噴火」を起こせばどうなるか、、

 

 

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阿蘇 141130

阿蘇カルデラは27万年~9万年の間に4回の大噴火を起こし、火砕流は豊後水道を越え、伊方原発のあたりまで届いています。阿蘇・伊方間を半径として円を描けば福岡県の玄海原発、鹿児島県の川内原発もほぼ等距離にあります。

 

もしも富士山が噴火し、火山灰が東京に流れ、わずかでも送電線や鉄路に積もれば都市機能は失われると言われます。ましてや阿蘇カルデラ破局噴火を起こし火砕流伊方原発のある佐田岬半島の付け根まで到達したら想像を絶することになります。

 

 

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伊方原発 140906

だから広島高裁は2020年1月17日、①地震について「中央構造線伊方原発敷地に極めて近い可能性が否定できない」と判断し、②火山について「四国電力が想定した火山灰の噴出量の約3~5倍に上る噴出量の火山灰を想定すべきであるのにこれを想定していない」として伊方原発3号機の運転を禁じる決定をしました。1号機2号機は既に廃炉が決まっているので伊方原発は全機が停止したことになります。

 

要するに、わずかな危険性があっても原発を稼働させてはならないというロジックにつながるわけですが、活断層はさておき、数万年に一度のカルデラ噴火まで心配した日には暮らしが成り立たないという考え方もできます。危険は他にもあるわけだから、原発に限らす、どの程度の危険性なら受け入れるかという現実論も議論されるべきでしょう。そう考えたとき、

 

ひょっとすると広島高裁は裁判上、地震と火山をテーマに挙げてはいるものの原子炉を動かせば必ずつくられる高レベル放射性廃棄物の扱いをどうするのかと間接的に問題提起したのかも知れません。加えて原爆に換算すれば数千発分になるという溜まりすぎたプルトニウムをどうするかも日本国の大きな課題です。

 

2020年に稼働中の高浜原発玄海原発伊方原発(停止中)ではウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使っており、大飯原発でも検討中のようです。国としてはこれ以上プルトニウムを溜めるわけにはいかない。かといって核爆弾をつくるわけにはいかない。だからMOX燃料に活路を求めたが、MOX燃料→再処理→MOX燃料という核燃サイクルの構想は頓挫している。日本国は核の袋小路に追い詰められたのではないでしょうか。そのことにヒロシマ高裁が鋭く反応したのではないかなとぼくは睨んでいます。

200701記 つづく