鹿児島県霧島妙見温泉近くの山道130723
四国の山に迷い込むと「空が三角に見える」とうまいことを言った人がいます。山と谷が交互に入れ代わり見晴らしが利かない四国山地と、阿蘇や霧島が裾野を広げる九州は、同じ山村でもどこか雰囲気が違います。友人と熊本で落ち合い、霧島は妙見温泉の近くまでやってきました。
霧島130723
そのむかし坂本龍馬とお龍夫妻が日本初の新婚旅行で訪れたのもこの霧島です。ふたりは錦江湾に流れる天降川沿いを妙見温泉、犬飼滝と渡り高千穂峰1573mに登っています。
犬飼滝(陰見滝)130723
龍馬は姉の乙女宛てに「この世の外かと思われ候ほどのめずらしき所なり。此処に十日計も止まりあそび、谷川の流にて魚をつり、短筒をもちて鳥をうつなど、まことにおもしろかりし」と手紙を送っています。してみれば高知市桂浜の高いところで懐に隠し持つ拳銃は狩猟に使われたことになり、ヤキトリにしたか鍋に入れたか、ともあれ飛び道具の平和利用ではありました。名前からして美しい霧島を足で訪ねた若夫婦はさぞや愉しい日々を過ごしたことでしょう。その翌1867年、大政奉還の前年、龍馬は京都の近江屋で暗殺されます。
滝口の節理が印象的な犬飼滝130723
何を以てテロリストと呼ぶかは歴史家の拠って立つ座標によりますが、近江屋で龍馬に刃を向けたテロリスト対し「短筒」で応戦することもなく龍馬は31歳の生涯を閉じます。その龍馬も元はといえば勝海舟を狙ったテロリストでした。龍馬が通常のテロリストと違うのは、テロ行為に及んだにもかかわらず、現場で勝の話に耳を傾け、たちまち思想信条を覆して勝門下に参入したところにあります。勝と龍馬が命を張って対峙した絵になる風景がどこまで歴史の真実かは不明ですが、龍馬が聴く力を持っていたことは確かでしょう。
ぼくら高知の住民は、売らんかな、稼がんかなの商標に使われる龍馬ブランドには食傷気味です。高知空港は正式に高知龍馬空港と改名されましたが、もしもこれが高校国語の作文の時間だったりすると漢字を6つも並べてどうすんだと先生に叱られたかもしれません。その龍馬ブームは司馬遼太郎の「龍馬がゆく」から始まったものです。
いつもの居酒屋で飲んでたら龍馬はこう言ってたぜ、というノリで描かれる司馬小説を物語として愉しまれる分には何の異議もありませんが、博覧強記の司馬遼太郎を神格化し、その創作に疑念を抱く言論を封じた上で、小説上の龍馬の振る舞いをあたかも歴史の真実であるかのように思い込まされるのは勘弁してもらいたいなと、、歴史とは、語り得る範囲で事実を置き、解釈の幅を残し、あとは読み手の想像力にゆだねる他ないのではないか、映画のように生々しく皮膚感覚に迫られるとウソだろと思ってしまうわけです。
龍馬も入った? 道端の温泉130723
石で囲っただけの湯には
目隠しも料金表もありません
勇気ある女性はどうぞって感じです
薪を使う羽釜の飯はうまい130723
台所の主役はスイッチポンで勝手に炊きあげてくれる電気釜ですが、その電気釜の開発者は例外なく羽釜で焚く飯のうまさを目標にしています。とすれば技術の進化って何でしょう?
丸太を彫った流し130723
もちろん妙見温泉には立派なホテルもありますが、ぼくらが泊まったのは昔ながらの湯治場、農閑期に骨休めする自炊宿でした。誰に気兼ねすることなく食べたいものを作り、本を読むなり散歩するなりご自由に。ウソ偽りのない温泉にはいつでも何度でも只でどうぞというわけです。泊料は3,000円少々だから龍馬みたいに「十日計も止まり遊び」候ひても財布はまあまあ大丈夫です。その手の湯治場が九州の温泉地には今でも結構ありますね。
流し130723
もちろんお金持ちは高級ホテルでどうぞごゆっくりなんですが、ああいう所はたまに泊まるから贅沢が身に沁みるわけで、贅沢ばかりしていたら喜びが限界効用に達してちっとも嬉しくないというのもヒトのサガです。旅の自由度、情報量の多さという意味では湯治場のカチだとぼくなど思いますけど、、
夕食を頼んだ日の食卓130723
昭和30年代の農村を知る自分はこの種の空間に郷愁以上のものを感じますが、今どきの若い子はどうなんだろうと思い、ヒノキの俎板を見せ、片端から「こんな板で壁とか床が葺かれていたらどう思う?」と質問したところ、例外なくコンクリートやペンキの壁より木がよいという反応が得られてほっとしました。
木造下路式アーチ橋130723
橋には様々な形があり、ちょっと意匠を勉強するだけで興味津々の世界に変貌します。木材で長スパンを取るにはどうしてもこの形になるようです。▼この段、添景人物を置かないと風景に空間がつくれないので後ろ姿の友人に登場してもらいました
200704記 つづく
高知の今
稲に花が咲きました 200701
おじさんたちはラジコンで遊んでいるのではなく
ヘリ型ドローンで農薬散布しているのです 200701