海事つれづれ五目めし200716 ちょっといっぷく3号 芋 茗荷 苺 種牛 砂糖黍 電磁鋼板

 

 

 

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高知市春野の芋畑 200531

芋の植付けは蔓を寝かして土をかぶせます。

 

 

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39日目の芋畑 200714

 

むかしは頭にイモが付くと禄でもない譬えでしたが、近ごろの芋は品種改良され、コンビニの焼き芋も人気です。酒とパチンコが大好きな高知の人間も農業の基礎研究では地味に頑張っており、交配を繰り返して新品種を開発しました。ところがそこへ利に聡い県外のヒトが遊びにきて暫くすると名を変え「今は○○ブランドで売られている」と元園芸連のえらい人が不満顔でした。

 

 

 

ミョウガ

「ハウス茗荷」も高知県で生れたワザですが、これまた九州や関東から研修団がやってきてチヤホヤされて飲まされて気がつけば高知の特産ではなくなっていたというホントのようなウソのような話もあります。苦心惨憺して編み出したワザも大事なところを見せたらアウトです。だから秘匿すべしと黙契したはずが、お人好しなんでしょうね。むかし別の仕事をしていたとき県外の商人が訪ねてきて「いやあ高知の方にはお世話になっております。お蔭さまで本当にありがたいです」とか何とか丁寧なご挨拶をいただきました。おいおいって思いましたけど、、

 

ハウスミョウガの生産体制を整えた高知県須崎市は今もミョウガの大産地です。ネットには「みょうがの日本国内の生産量の約9割を高知県が占めており、県内でも約9割の生産量を誇るのが須崎市」という記述もあり、それが事実なら、必ずしも他県に技術と市場を奪われたということではなく、もともと香味野菜の市場は狭いので、作りすぎて飽和状態になったのかもしれません。須崎の茗荷ハウスを訪ねてお話を伺うと、昔の話をするときは嬉しそうですが「今はどんなことです?」と聴けば大概うかぬ顔をしますね。創業者利益がドカンと入るのは一時のようです。

 

 

 

【イチゴ】

国内でパクリ合いする分にはまだしも必死カッパで開発した苦心のイチゴが韓国へ渡り、2018年の冬季オリンピックカーリング美女5人組が、ソダネーとか言いながら「もぐもぐ」した韓国イチゴは、実は盗用され、ロイヤリティを払うことなく使用された日本品種であるから、けしからんという声がネットに広がりました。

 

へえ~そんなこともあるのかと改めてスーパーに並ぶイチゴを観察したところ今どきのイチゴは、色も形も甘さも大きさも、ここまでやるかというほど進化しています。新種開発には多大の情熱を注いだにちがいありません。新たに命名された品種名も様々で、とよの香、さちの香、さがほの香、えちご姫、やよい姫、とち乙女、、かわいい名前のオンパレードです。福岡S6号は「あまいまるいおおきいうまい」の頭文字を取ったから甘王ではなく「あまおう」が正式名称なのだそうです。

 

20年ほど前、友人に連れられて韓国のイチゴハウスを訪ねたことがあります。寒さ対策のためハウス内部にビニールを二重に張り、地下水を汲み上げ、上から散布していました。ボイラーの燃料代を倹約するため地下水の熱を利用するという日本では見かけない仕掛けで、国の内外を問わず、風土に合わせて様々な工夫を凝らしているものだと感心しました。

 

世界が情報と流通でつながった今は、施設内部の小道具まで、おっとこんなアイデアがあったのかと驚くばかりです。ウチのハウスの水回りはイスラエルの部品を使っています。ちかごろ高知に立ち上がった大規模施設はオランダ由来の設計思想で造られたハイテクハウスです。そこへ中国から肥料が入り、ベトナムの若者が働き、、といつの間にか農業も国際化しました。

 

 

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西表島で肥育中の黒牛( 本文とは関係ありません)170707

 

宮崎日日新聞200712に「種雄牛精液を県外に転売、授精師2人、県要領違反し40本」という記事がありました。「精液は県内で使うことを条件としているが、計7道県の授精師に転売したとみられる」とあり、ネットには「これが中国や他の諸外国に流れて安価な霜降り牛が輸入されでもしたら」といった類の書き込みがどっさりあります。何年か前に家畜の疫病が流行ったとき真先に避難させたのは種牛であり、その遺伝子は秘中の秘なので関係者はやきもきしていることでしょう。

 

 

 

【電磁鋼板】

日経新聞200714一面に「トヨタ、中国から特殊鋼板 / EVモーター用、日本勢を追い上げ」とあります。記事では触れられていませんが、電気モーターの心臓部にも使われる電磁鋼板は、元はといえば日本の資本と技術協力で建設されたポスコが、新日鉄から技術盗用したものです。裁判は「ポスコの機密情報を中国メーカーに流したとされるポスコ元社員が『技術は、もともとは新日鉄のものだ』と衝撃的な発言を行った」ことでケリが付きました。

 

そんなことにはお構いなくChinaに入れ込んだトヨタは、コロナの渦中にあった春先にも天津の新工場建設を推進し、精華大学には共同研究所を創るそうです。一昔前なら良い話だなあ頑張れと応援したかもしれませんが、習近平主席の不穏な言動と、尖閣南シナ海、インド国境、チベットウイグル内モンゴル、直近では香港、香港に鋭く反応した台湾等々ここに来てChina政治の本音が露わになった今、ネットではトヨタ大丈夫かと不安の声が漏れています。

 

そのむかし喜多郎シンセサイザーに乗ってNHK新疆ウイグル自治区の砂漠をロマンチックに描いたころから、大陸特有の超長期戦略が打たれ、それがいま日本の政財界の取り込みに高速回転し始めた、と昨今の情況を見れば、フツー誰だって考えるのではないでしょうか。薬師寺の特設会場には平山郁夫が描いた砂漠のラクダが目の前一杯に広がります。会場のほどよい暗さと絵画面積の迫力にやられて観客は感動させられる仕掛けになっており、自分もその一人でしたが、2020年の目で振り返れば、あれは世界中に仕掛けられた罠の一つではなかったかと思うわけです。

 

1980年代に2度、香港から珠江を渡ってChinaに入りました。文化大革命で破壊され尽くしたと言われる寺院が所々に残ってはいましたが、当然のことながら生きた仏教活動は見かけなかったですね。宗教を否定した国と平山郁夫がなぜ薬師寺でつながるのかと、、話が逸れました。今次のテーマ、溶け合う技術に戻ります。

 

 

 

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奄美大島大和村170719

 

高知と愛媛に跨がる足摺宇和海国立公園は複雑に入り組んだ美しい海ですとクニの自慢をした上で、四周を海に囲まれた奄美大島の渚はまた格別でした。そこをバイクでトコトコ走っていると、この沖で台風に遭い中国福建省に漂着した人物の碑に出くわしました。

 

 

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奄美大島大和村  直川智翁顕彰碑脇の看板 170719

 

碑文には「当時、中国では製糖技術を外国人に教えることは禁止されていましたが(大和村出身の直川智翁は)サトウキビの栽培技術と黒糖の製法をひそかに学び、帰国の際には、衣類箱の底を二重にして、命懸けでキビ苗3本をかくして持ち帰り~」とあります。

 

それって泥棒じゃねえの、運良く助けてもらったのに門外不出のキビ苗を持ち帰ったらいかんやろとぼくなど思うわけですけど、パテント?何それとでも言いたそうな、あっけらかんとした文言から南の国のとてもジコチュウなおおらかさが伺えます。

 

 

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日照りが続く徳之島の痩せたサトウキビ畑 170716

 

どこの誰でも心の中にはナショナリズムが潜むわけで、直川智が身の危険も省みずキビ技術を盗んだのはクニの仲間を喜ばせるためであったろうし、盗ったり盗られたりは時として主語が入れ替わり、かくて技術は溶け合い、社会は進化するとしたものでしょう。盗られる側にしてみれば、たまったものではありませんが、被害者だけを強調すると視座のバランスを見失いそうです。

 

文化は伝播先で独自進化するというのが文化人類学のセオリーです。「長く戦争をしていると戦い方が似てくる」とうまいことを言う人もいます。その辺りをおおらかに捉えた上でなお江戸期から一貫して持続する「職人」ワザを大事にしないと、大陸とほどよい距離を保ってきた東シナ海の防塁が、ネットと航空機で突破された今、ヤマトの歴史がひっくり返るもしれないぜとぼくなど思うわけです。

200716記 つづく