ちょっと道草 201018 四万十川ウルトラマラソンの周辺1 曲線斜め堰 沈下橋

 

 

 

 

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後川の麻生堰 201004

 

四万十川は河口部で二手に別れます。みんなが知っている四万十川は西の大河ですが、川の通には東を流れる後川が好評です。川もこの程度の規模だと子どもを水遊びさせても危険はなく、小学生も高学年になればまず水難事故は考えられません。水中メガネで覗くとアユ、ハヤ、エビ、ゴリ、運がよければ穴からウナギがこっちを向いているかも知れません。水族館の魚類は見てお終いですが、川の生きものは晩のおかずなので子どもの目の輝きがちがいます。

 

 

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麻生堰201004

 

最近この堰堤が日本最後の「曲線斜め堰」であることを知りました。堤の線が扇状に曲がっていることにはワケがあります。川の両岸にピンと張った縄を水面に下ろすと水流の強い力を受けますが、少しずつ縄を緩めると、縄はきれいな弧を描き、引っ張る力がやわらぎます。線が弧になると水圧を受ける面積が広がる。単位あたりの圧力が減衰する。洪水に強い堰が造られるというわけです。

 

かつて宿毛市の河戸堰が見事な弧を描いていましたが、工事で分断され、高知の人なら誰でも知っている江戸期の土木家、野中兼山が残した曲線斜め堰はこの麻生堰が最後のひとつになりました。聞くところによると東大土木工学の教授が学生を連れてきて「よく見ておけ」と促したとか。それぞれの時代の土木家が、既存の技術に独自の工夫を加え、尖端を競ったという意味においては、現代の巨大ダムも江戸期の小さな堰堤も同じ価値をもちます。というより文明がヒトの背丈を越え、福祉に貢献するより、むしろ敵対してきた今、折に触れ振り返るべき土木の原点なのかもしれません。

 

 

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Google mapで覗いた麻生堰の蛇行部

 

洪水時の水流を直に受けると堰堤の石組みが傷むかもしれない。そこで川の曲がりで水の勢いをやわらげ、川の対岸から堤を斜めに渡して距離を稼ぎ、さらに扇に広げて水圧を弱めたようです。けっして野中兼山は美観を狙ったわけではないのでしょうが、結果として美しい堰に仕上がりました。

 

 

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ウルトラマラソンの巨大看板 201004

 

その麻生堰を上流に進むとでっかい看板が目に飛び込みます。知る人ぞ知る四万十川100㎞マラソンです。フルマラソンが42㎞だからオリンピック選手が走っても5時間はかかります。全行程1200㎞の四国遍路は普通50日ほどかけて歩くから1日あたりの走行距離はまあ20~30㎞としたものです。高知県香南市の「塩の道ウォーク」は朝6時発のバスに乗って物部川上流のダムサイトで降り、海沿いの赤岡町まで30㎞の山道をたのしく歩きましょうというイベントです。ぼくも参加しましたが目的地に着いたのは夕方でした。

 

 

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カミーノデサンティアゴ 撮影日時不明

トロイの木馬ではありません^^

 

フランスはパリから、ピレネー山脈を越え、スペイン北部大西洋岸のサンチャゴ・デ・コンポステラへ向かう「サンチャゴの道」を馬と一緒に歩いた友人がいます。給油の代わりに土地の農民と交渉して飼い葉をもらい、宿のない日は馬と一緒に寝て起きて、たまに馬の背に乗せてもらいながら歩いた道は1日平均50㎞くらいのものだと聞きました。

 

ところが、このウルトラマラソンはたった1日で100㎞も走ってしまおうという無謀な行為です。しかもスタート後の20㎞地点でいきなり標高600mに達するという信じられない行路設定です。600mは東京スカイツリーのてっぺんだから、あれを見上げて走って登ろうとする東京都民がいるかどうか、ぼくはその坂道をホンダのクロスカブで登り、いま思い出しながら書いているわけですが、110㏄のエンジン8馬力→馬8頭の尻を引っぱたいて登った道を人間の足で駆け上がるヒトとは何か?

 

恐ろしいことにそのピークに達してもまだ80㎞も残っています。このマラソンではありませんが、知り合いの女性の旦那さんがマラソン途中で落命したという気の毒な話を聞いたので、どう考えても標高600m+100㎞マラソンは命懸けです。翌日は仕事もあるでしょう。にもかかわらず参加費18,000円で1,800人募集のところへ毎年倍の人数が応募するというから正気ではありません。このヒトたちはいったい何なのか、本当に人間なのだろうかと考えた挙げ句、やっと分かりました。写真ではヒトの形をしていますが、カメラのレンズに特殊なフィルターをセットして撮ると首から下がウマだったりイノシシだったりするのです。嘘ではありません。

 

本日10月18日はウルトラマラソンの予定日でしたが、

コロナのせいで中止になりました。

看板にはChina語の案内もあるのに、、です。

 

 

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麻生堰の上流にある砂防ダム201004

 

コンクリートを使うから川を真横に切っても強度的な問題はないにせよ、機能主義というかモダニズムというか、まあそっけないダムではあります。上流に向かうお魚さんは右手の吐水路から上れというのでしょうか。迷子になって遡上をあきらめる小魚もいるのではないかと心配になります。

 

 

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川上から見ると砂利が溜まって201004

砂防が機能不全になっています

 

 

 

 

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右手の細道がお魚さんの遍路道201004

 

別のダムで管理者に「魚道ってホントに魚が上るの?」と訊いたら「けっこう上っていますよ」とのことでしたが、本当のところはどうなんでしょ、水中の魚に自分の位置把握ができるものかどうか、上から見て「おめえどこ向かってんだ右だよ右」と叫ぶのはヒトの勝手としたもので、、

 

 

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ラソンコースの途中にある 201004

たぶん四国でいちばん短い沈下橋

ふだんは長閑な風景ですが

大雨がふるとどうなるかはすぐにも想像できます

 

 

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コース脇の棚田 201004

 

もとはと言えばここは山の一部でした。木を伐り、土を削り、石を運んで汗水たらした棚田に黄金色の稲穂がゆれるまでには長いドラマがあったことでしょう。その歴史を知る農民は、石油文明にどっぷり浸かって平気でご飯を食べ残すわれわれとは違う風景を見ているはずです。

201018記 つづく