ちょっと道草 201022 四万十川ウルトラマラソンの周辺2  沈下橋 ジップライン

 

 

 

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旧大正町(いま四万十町)の沈下橋 201004

 

画面を広げると川に体を半分沈めたヒトの姿が見えます。アユ竿を振って川面を見つめていると「川がおのれか己が川か」わからない忘我の境に達するそうですが、釣具屋に置かれた軽くて美しい鮎竿には小さな値札に恐ろしい数字が書かれているから要注意です。まあアユだけ欲しければ買えばよいので釣り師の目的はちがうところにあるのでしょう。

 

 

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西土佐 半家沈下橋 201004

 

川の荒ぶる姿が見たい観光客の皆さまには、ぜひ台風が通過する大雨の日においでください。降った雨が川に集まり見る見る増水して沈下橋の橋桁に達したころハンドルを握って向こう岸まで渡り切ったら非常な達成感が得られるかと思います。ただし橋と直角に流れる濁水が目に錯覚を起こすこともあるからご用心^^

 

昔の川は大雨のあともささ濁りの水が、ゆるやかに上がったり下がったりしたものですが、森のダムが失われた今は水流も水質も変わりました。年間降雨量日本一の高知県では、森に降った雨がスギ・ヒノキの植林を滑り落ち、川の水嵩を増したかと思えば、あっという間に引き、引いた後は増水時の高さを示すかのようにビニールごみが木の枝に引っかかってシュールな風景をつくります。それでもカヌー好きに「好きな川は?」と訊けば、ただちに釧路川四万十川が挙げられるから川沿いを100㎞も走るウルトラランナーは元気です、とはいえ今年はコロナで中止に追いやられましたが(--

 

 

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四万十町十和の第一三島沈下橋 201004

 

この沈下橋は今も現役の道路なのですが、釣り客がふたり橋の上に寝っころがって竿の下を覗いていました^^!  洪水時の水の抵抗を下げるため橋桁の縁は丸められており、酔っぱらって月見なんかしていると危険です。が、まあ落ちたって泳げばいいじゃんというヒトには沈下橋ならではのスリルが味わえます。深夜に川面から首を出して見る月は兼好法師の説く「配所の月」にもまさる美を見せてくれることでしょう。

 

夏場は地元の中学生なんかが橋からジャンプしてはしゃいでいますが、彼らは川の怖さをよく知っているから楽しく遊べるのであって、天候、水量、安全な場所が読めない県外客がプールのノリで飛び込むとそのまま浮き上がってこないことがあります。事故に遭った人はもとより、仕事をなぐれて捜索に駆り出される消防隊員も大変です。

 

何年か前ゴムボートで2日かけて川下りした経験から言うと、さして水量もない夏の日でも川には至るところに魔の仕掛けが置かれていました。水と一緒にゆったり流れていても川幅が急に狭まるとボートは制御できないほどの速さになり、その勢いで曲がりの淵に差しかかると、水は渦巻き、かたわらで不気味に盛り上がった水が波紋を広げています。そんなところへ川に不慣れな人が落ち込んだら、急流の横圧で水中の岩肌に張り付けられるかもしれず、濁水にまぎれて上下感覚を失うかもしれません。パニックを起こしたら残された時間はわずかです。

 

そうは言ってもせっかく四万十川までやって来たのだからという元気者は、中学生と一緒に飛び込むのが賢い遊び方ですね。泳ぐのはちょっとなというジジババは、屋形舟に乗って川岸の風景をたのしみながらエビやウナギのお弁当をあけるのもよろしいかと。川にはうねりがないので平底の川船で七輪を使うこともできます。舟によっては投網のエキシビジョンを見せてくれることもありますが、客の前でちょっと投げたくらいで成果を期待されると船頭はつらいでしょう。

 

 

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四万十町十和  予土線第4四万十橋梁のトラス橋  201004

 

かつて鉄道は物流を促し生産性を上げるための投資でしたが、いまは鉄道本来の目的から大きく外れ、観光客を楽しませるトロッコ列車を曳くようになりました。ミッキーちゃんの東京ディズニーみたいにちんけな遊び場ではなく、ここは高知と愛媛にまたがる巨大テーマパークなのです。ウソ偽りのない川が流れ、魚が泳ぎ、いささかの入漁料を払えばアユが釣れ、子どもは川遊びができます。二人連れでサイクリングしたり、川辺で石切りしたり、黒ずくめの集団がハーレーダビッドソンでドコドコ走ったり、ここにはテーマパークが構築する擬似的な自然空間が昔から只であります。もしも豊島園の経営者が四万十川に目を付けていたらコロナで倒産はなかったろうにと、ついいらんことを、、

 

気がつけば30年も昔の話になりましたが、日本経済が絶頂期のころカネは唸るほどあってもモノの生産にむけた投資先がないという時代に「遊びが経済を回す」というイミフな概念が持ち込まれました。生産と消費の関係式からヒトの幸福がつくられていたところへ遊びが割り込んできたので、ぼくなどびっくりしたものですが、あれよあれよという間に世は移り、いつしか国が国民にカネを配って遊べ、泊まれ、メシを食えだなんてことになりました。21世紀のぼくらは資本主義も社会主義も突き抜けた、まだ名前のない経済の中に放られています。

 

 

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四万十町十和 201004

 

向かいはジップラインの発進地、手前の川岸は舟で上陸する遊客です。川はあちらとこちらを分断する場ですが、ここでは舟にのって時間をかけ目的地へ着く前に胸の高まりをつくる水の道になっています。神社仏閣の参道みたいなものです。

 

 

 

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ふたりでGo!

大声で叫ぶ間もなく対岸へ

いま大人気です

 

これは誰の発案かと訊いたら「地元の議員さんがどこかで仕入れてきた」とのこと。県外にはけっこうある遊びのようですが、噂の四万十川をジップラインで渡ったヒトはそれなりのステイタスをゲットできるのかも。むかし橋本大二郎さんが県知事をやっていたころ高知に名所をつくろうというフォーラムで高知大学の学生が「足摺岬バンジージャンプ」という大胆な提案をしました。あの岬で恐怖をたのしむのは若い者にまかせ、ワイヤーに吊られて川を渡るくらいならぼくにも出来そうだから折りをみて一度と思っています。四万十川は別名「渡川」とも言います。空中を渡りながら見る川の風景ってどんなでしょう、やってみるまで分かりません。

 

 

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栗が最盛期です 201004

 

201022 記 つづく