ひとり旅 211017  対馬の森のシシの巻

 

 

 

 

 

 

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対馬南部の森 2021.10.03

 

観光マップに「原始林」という凄い言葉が置かれていたのでわくわくしました。原始林、原生林、処女林といった言葉の正確な定義は、人跡未踏の森を意味しますが、もはやヒトが足を踏み込んでいない森は地球上どこにもありません。しかし厳密なことを言っても仕方がないので、そのむかしモンゴルの兵士が見上げた対馬の森はまぎれもない原始林であったろうとアタマの中に巨樹が葉を繁らせる映画を作りながらバイクを走らせました。

 

対馬の最高峰は矢立山648mです。北海道の利尻山1721m、屋久島の宮之浦岳1936mに比べればどうということのない高さですが、海から立ち上がった照葉樹の森が谷間を挟んで広々とした空間をつくると、走るバイクからチラと見下ろす危なっかしさも手伝って森のスケールとスリルを同時に味わえます。脳内映画には昼なお暗い森蔭からゲゲゲの鬼太郎が妖怪を連れてあらわれそうな気配です。

 

 

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対馬北部 スギ材を乗せたトラック 2021.10.01

 

対馬の森を4日かけて北から南まで走り

スギ・ヒノキの植林は北部に多いかなという印象を受けました

 

わが高知県は森林率日本一! なんと県土の84%が森面積であり、その大半がスギ・ヒノキの植林です。子孫のために良かれと願い、山のてっぺんまで植えまくった林業家のご努力に敬意を払いつつも「緑の砂漠」は奥山まで続き、春もなければ秋もない森を見て、よくもまあこれほど植えたものだと溜め息が出ます。手入れを怠った植林の森は昼なお暗く、下草は生えず、根元の土は瓦礫です。豪雨にやられて洪水を起こし、根の浅いスギ・ヒノキを連れて土石流が谷を埋めることもあります。

 

先人の願いも空しく木材の値は安く「スギ1本、ダイコン1本」と自嘲気味に語られるほどです。林道脇のスギ・ヒノキは何とか採算がとれるにせよ、道なき道の傾斜地に植わった植林は間伐されぬまま価値を落とし、鳥の声もなく静まりかえっています。

 

すべては1964年(昭和39年)の「木材輸入の自由化」から始まりました。工業立国を選択した日本は、輸出と引き換えに外国産材を輸入し、あおりを食らって国産材は値を落とし、山の民は暮らしの場を失いました。やがて村人は山を下り、廃屋が広がって廃村となり、都市部で高齢化した村出身者は、年に一度の神祭で古里に集うことさえあやうく、遠く室町時代、戦国時代に遡る山村の歴史が戦後わずかの期間に人々の記憶から消えようとしています。

 

下記の動画「日本が捨てた村」は

高知県安芸市の山間の村「別役」の風景を

過去と現在を織りまぜ、淡々と映しています

ご興味の方はどうぞ

https://www.youtube.com/watch?v=ts2GmFKLvdk

 

 

 

 

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対馬北部の植林の森 2021.10.01

 

対馬は照葉樹の島かと思っていたら

意外にも植林が多く

それなりに林業も盛んでした

 

 

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対馬北部の原木椎茸 211001

 

しっかり鉄柵で囲われた

対馬農業の稼ぎ頭です 

 

林業、漁業、観光と並べ、旅館のご主人に

「儲かってますかね?」と訊いてみましたが

はかばかしい返事はもらえませんでした

ちょっと見の旅行者の目にも

楽に暮らせる業界はなさそうです

 

ただ一時的な現象かもしれませんが

いま世界的に木材価格が上昇しています

カナダのBC州で松くい虫が大流行した

中国各地の洪水によって住宅需要が生れた

コロナ隔離で疲れたアメリカ人が家を立て始めた

等々の理由があるらしいです

木材価格が上がれば高知の山は

宝の山になるので後日調べてみます

 

 

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イノシシを捕獲する罠 2021.10.01

 

この森を走っていたとき

バイクの音に驚いたシシが目の前をよぎり

ぷりぷりの尻を見せて崖を駆けあがりました

 

 

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ここにもシシ檻が 2021.10.01

 

対馬の人口3万人弱に対し

シカが4万頭!

イノシシは6万頭!!も棲息するそうです

 

イノシシ除けの鉄柵、電気柵は今や

全国の農地に張り巡らされています

昔はなかったことで様々な理由が考えられるのでしょうが

植林が増えたこと、山にヒトがいなくなったことも

関係しているように思います

 

むかし高知の山間の町で暮らしていたとき友人から「シシが捕れた。みんなで囲んでいる。来んか?」というお誘いの電話をもらいました。さっそく出かけたところ今しも解体を済ませた現場の脇で、部落の人たちが炭火を囲み、ものも言わずひしひしと食していました。海の近くで育った自分は、尾頭付きのサカナ料理には慣れていますが、ずらりと並ぶ食卓の上座にケモノの頭をデンと据え、新鮮この上もない肉を焼いて頬張るのは初めての経験でした。友人は「昔はタンパク源が捕れたら村人総出で栄養補給したものだ」ということをぼくに伝えたかったのだそうです。

 

呼ばれて出向いた自分は、焼き肉屋の暖簾をくぐったようなものでしたが、当たり前のことながら肉を喰うためには生きた肉を捕らえねばなりません。知り合いに「どこで捕まえたの?」と問うたら、いわく「田んぼで悪さをしていたから呼んでジャンケンした。こいつ馬鹿だから何度やってもチョキしか出さねえんだ。棒切れで頭をぶっ叩いてやった」のだそうです。猟好きの土建屋さんは「犬と一緒にシシを追い詰めた。鉄砲もって狙ったところで、よろめいて足元の溝にぶちこけた。慌てて上を見上げたらシシのキン○が揺れていた」と炭火の煙をよけながら取って置きの武勇たん?を披露してくれました^^!

 

バイクに乗っているとしばしばイノシシに出会います。五島列島上五島をトコトコ走っているとき凄い勢いで影が飛び出しました。猪突猛進とはよく言ったもので、あの瞬発力をつくるシシ君の腰のバネは相当なものです。道を横に抜けてくれたからよかったけれど直進してきたらどうなるんだろ。小さなバイクだからオレはコケる。誰もいない森の中で身動きできなくなったらどうすべいとまあ一人で旅をしているといろいろ考えるものです。ちなみに一昨年シシの腿肉をもらい、時間をかけて煮込みましたが、堅くて歯が立たなかったです。

 

2021.10.17記 つづく