ひとり旅 211020  対馬の森のシカの巻

 

 

 

 

 

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対馬北部 シカ 2021.10.01

 

ちょっとだけ自慢させてもらうと

森の中で出会った鹿の写真を撮るのは

けっこうコツがいるのです

ミラーレス22㎜単の標準レンズだから

もっと近づきたいけども

間合いを詰めるとテキは逃げます

中央部を拡大してご覧ください

 

比田勝の宿でまかないをしてくれた女性によると対馬ではシシもシカも増えすぎてもう大変「鹿なんて群で歩いているんですよ」と教えてくれました。「ムレってあなた奈良公園じゃあるまいし」ほんまかいなと半信半疑で問い直したことですが、舗装道路でばっこり出くわして、やっぱ本当らしいと思いましたね。

 

 

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こちらを向いたシカ 2021.10.01

 

一定の距離を置いた鹿は、やがて体を正面に向け、真っ直ぐこちらを見つめます。相手が敵対する存在かどうか、逃げようかどうしようかと迷っているのでしょう。鹿から目をそらさずバイクに跨がったまま手元でシャッターを切りました。鹿は腰のバネを活かし1回のジャンプで三段跳びの選手くらい歩幅を稼ぐので、走る姿はスローモーションのビデオを見るように優雅です。ヒトが鹿になりたかったら重力1/6の月面を行く他ないでしょう。北海道はサロベツ原野の夕刻エゾシカが連れ立って大波のような軌跡を残した姿が忘れられません。四国の林道で鹿に出くわし、驚いて逃げる後ろ姿をバイクで追ったこともあります。短足の猪は回転数で駆けますが、鹿のように脚が長いと歩幅で跳ぶのでカッコいいです。三塁打を放った大谷翔平選手みたいなものです。

 

ところがその鹿も

増えすぎて森を壊し

人里に出て悪さをするので

害獣認定されました

 

奈良公園で煎餅をねだる鹿を見て

美味そうだと呟いたら人格を疑われますが

今どきの野生鹿は撃たれてジビエ料理にされます

 

可哀相な気もしますが、捕る側にしてみれば

オオカミがやっていた仕事を代替するわけだから

苦労は多く、採算にのせるには問題が山積みで

仲介する行政も悩み多いことでしょう

 

今昔物語にふたりの女性を妻とし、ひとつ家に住まわせるというふざけた野郎の話が出てきます。男は丹波篠山の田舎で娶った「元の妻」に飽き、京美人の「今の妻」を迎えました。そこに届いたのが哀愁に満ちた鹿の鳴き声でした。「京のものなれば」恋に目覚めた秋の牡鹿をタネに歌のひとつも詠んでくれるだろうと期待し、厚化粧の「今の妻」に「いかが聞き給ふか?」と問うたところ女は「煎りものにてもうまし焼物にてもうまきやつぞかし」と応えたので男はがっかりしたという話です。「煎っても焼いてもジビエ料理は美味しいわ」だなんて情緒もへったくれもなく百年の恋も覚めちまったという次第、、

 

同じ問いを「元の妻」に投げたところ

妻は心移りした男に皮肉をこめて

やんわりと歌で返しました

 

われも鹿なきてぞ君に恋ひられし今こそ声をよそにのみ聞け

 

昔はあたしのこと可愛いね、きれいだねって言ってくれたのに今は都の女にぞっこんなんだから悔しいのよというわけです。この手の感情を露な言葉でぶつけられたら男は辟易しますが、ジェラシーを三十一文字に包んでそっと返した元妻のほどよい距離感に打たれた男は「今の妻」を都へ返し「元の妻」と寄りを戻したとさというお話です。歌を詠むとは、趣味や教養にとどまらず、夫婦間の安全保障にもつながるという寓意があるのかも^^!

 

恋人を呼ぶ牡鹿の声はこちら

https://deerinfo.pro/call-of-deer/

 

 

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猪鹿蝶の花札 ネットより

 

 

和歌のみならず

おいちょかぶの花札には

紅葉の下に牝鹿の姿が描かれています

刺青もむくつけき博打打ちが

猪鹿蝶の優雅な花札を並べて争うなんて

ヤクザがお姫様と貝合わせして遊ぶようなものです

 

ヒトの世に賭け事は付き物ですが

所詮はカネの遣り取りなのに

かくもエレガントな札を並べて

勝ち負けを競う民族は珍しいのではないかと、、

 

 

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挿絵は源氏物語  ネットより

 

やがて新札に切り替わります。千円札は野口英世北里柴三郎というお医者さん、五千円札は樋口一葉⇒津田梅子の女性リレー、おカネの金メダル1万円札は福沢諭吉渋沢栄一という商哲学のおふたりです。どの国も通貨のカオは政治家ないし軍人が幅を利かしていますが、戦後日本は文句なしの平和主義で一気通貫しています。きわめつけは沖縄サミットを記念した2000円札でしょう。全編これ恋だらけの源氏物語「鈴虫」の段が印刷されています。

 

平安時代のスズムシは

今のマツムシだそうです

チンチロリンの松虫の声はこちら

https://www.youtube.com/watch?v=ZBdSUrSZQAg

 

賭けてもよいですが世界中を訪ね歩いても国家の威信たる紙幣にあやしい恋の物語を置いた国は日本くらいのものでしょう。四海に守られ、美しくも風変わりな文化を育んだヤマトはもともと平和の国でした。外圧でこじ開けられ、明治よりこの方、多くの戦争を挟み、一旦ボロボロにされて終わりましたが、縄文以来の美風がすべて消えたとは思われません。

 

地質学者は日本列島を(なぜか自虐的に)「大陸の破片」と呼びますが、ハンチントン教授は日本を「一国一文明」として扱いました。日本海東シナ海は小船で渡れる距離ですが、文化文明の本質は半島や大陸とはだいぶ違うぞと思うに至り、じつはそのようなことを考えながらの対馬行でした。

2021.10.20記 つづく