ひとり旅 240115  ラベル  モーツァルト 特攻

 

 

 

 

 

ラベルの「ピアノ三重奏」を弾く高木凛々子  2023.12.31

 

スギ板に穴ぽこ空けて

5㎝のスピーカーを埋め込み

オモチャみたいな中華アンプにつないだら

まあそれなりの音がしました

 

今までは30㎏もあるJBL真空管アンプで鳴らしていたのですが、狭い部屋にJBLは大仰だし、発熱器みたいなアナログアンプより小さなデジタルアンプの方が優秀だと分かって写真のようなコトになりました。深夜に音を愉しむにはこれで充分、無垢の木箱の素朴な共鳴音が気に入ってます。

 

配線を終えYouTubeの音楽欄に入ると、あらなつかしや学生時代に東京の下宿でLPレコードに針をのっけて繰り返し聴いたモーリス・ラベルのピアノ三重奏を見つけました。ラベルが第一次世界大戦に出征する直前に仕上げた作品です。とりわけ第四楽章のビブラートが印象的で弦のふるえから戦場へ向かう作曲家の心の葛藤を感じたものですが、その感覚は長い年月を経た今も変わらないことがわかりました。

 

 

フォルフガング・アマデウスモーツァルト   ネットより

 

モーツァルトの絶筆は「レクイエム(鎮魂歌)」です。高額の報酬をもって作曲依頼に来た顧客を冥界からの使いと信じたモーツァルトは、みずからの死を予感し、渾身の力をこめて別れの曲を書きました。来世へ向かう最後の楽曲は低音部のうねるような繰り返しで始まります。作曲途中で倒れ、後半は弟子のジュースマイヤーがつないで完成させていますが、どこまでがモーツァルトの真作かといわれると諸説あるようです。ネットの書き込みに以下のものがありました

 

「前半はモーツァルトによる神業の作曲だが後半はその弟子が引き継いで作曲したために 平凡そのものだ、と“美味しんぼ”で言ってたが、どこからがその境界線か分からない」⇒境界線はわかりませんが、前半と後半のキレのあるなしは(ぼくにも)感じられます。弟子がいかに天才を真似たにせよ、創作というまだ誰も知らない分野を開拓することはできないからでしょう。

 

「入試落ちたとき脳内で人生の終わりを告げるレクエイムが奏でられていた」⇒希望が失われたとき頭の中でレクイエムが鳴る人は一種のカタルシスを覚えるのかも知れません。

 

「昨日の鎌倉殿で流れたとき鳥肌が立った」⇒NHKはとんとご無沙汰ですが、鎌倉殿にレクイエムが流れる場面は見たかったなと残念です。

 

モーツァルトアンチだけどレクイエムだけは本当にいい。いつもの成金宮廷音楽と違って人道的な音楽になってる」⇒「成金宮廷音楽」とは凄い言葉ですが、人間モーツァルトの昼の顔と夜の顔を描き分けた映画「アマデウス」は傑作です。ツンと澄ました優等生がきれいな曲を書きましたっていうのはむしろ嘘っぽくて、18世紀のキャバクラ通いを趣味とする品性下劣な男が、あの美しい旋律を生んだことに(ぼくなど)むしろ整合性を感じます。くるくる変わる旋律を頭の中で追いかけているうちに違う世界へ連れて行かれるような気がして「悲しみは疾走する。涙は追いつかない」という小林秀雄の名言を思い出します。

 

Chat GPTは既に作曲の世界にも浸透していますが、ジュースマイヤーに代わってAIが続きを書いたにせよ、それらしいものは作れても、あの荘重なレクイエムを創作することはできないでしょう。死と対峙した祈りの分野にまで機械が参入できるとは思えないのです。

 

 

一式陸攻から切り離される桜花  ネットより

 

昨秋四国の森の中で特攻1号関行男大尉の存在を知りました。ひとの死の形は様々であり、多くは個人的な出来事ですが、国家という大義を背負い、特攻という確定した死に向けて飛んだ若者はいったい何を思ったのであろう…と考えながら鹿児島県は万世、知覧、鹿屋の特攻祈念館を訪ね、その後「最初の特攻、最後の特攻は高知県人」であったとする書に出会いました。どうやら「最初」と「最後」のみならず「特攻」そのものを発案し進言したのも高知県人のようです。

 

ヒトはいずれ逝くものですが、畳の上、ベッドの上、意図せぬ事故、災害による不意打ちと様々な形はあっても、国家を背負い、個を空しくする自爆死を決行したのは大戦末期の日本人でした。航空特攻、水上特攻、水中特攻あるいは銃を持つ突撃等々かたちは様々ながら多くの兵士が、帰還可能性を断ち切り、この世とあの世の境を越えました。ざっくり4000の御霊が空中を飛び交う弾幕の中で散華したわけですが、そのことを安っぽい戦後史観で説明されたのでは死者は浮かばれまいと昨秋からずっと考えているうちに梅の蕾がふくらんできました。

2024.01.15記 つづく

 

 

 

< 2024年の現在史 >

1月20日(土) 00:20  SLIMがピンポイントで月面に着陸予定です

2月15日(木) 09:22  H3ロケット2号機が打ち上げ予定です

今度こそ成功を祈ります