日本ところどころ⑫ 四万十川 津軽ダム

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*青森県弘前市の林檎園141029

東北各地にリンゴはいくらでもあるけれど何故かリンゴは青森という強いイメージがある。さほど大きくない木に枝も折れよと言わんばかりの数が成り、よく手入れされた圃場にリンゴ農家の執念が見える。ぷりぷりのリンゴのお尻まで赤いのは木の根元にアルミの反射板が置かれているからだ。

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*秋田県鹿角市りんごの花130526

種子はなぜ果肉を身にまとうのか? 発芽時の養分になる。消化管を通して発芽を促す。鳥を介して遺伝子を遠方に運ぶ等とり立てて反論しにくい説明があるけれど、どこかダーウィン好みの生存戦略が見え隠れしてさみしい。花は咲きたいから咲き、蜂は遊んでいるのではないだろうか。

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*収穫途中の林檎園141030

観光旅行のチラシは名所、温泉、料理の3パターンで客を誘う。不特定多数を相手の企画だから冒険できないことは分かるが、花見と紅葉狩りで集客を狙う期間限定の旅だってあるわけだし、川面に霞が立つころ「リンゴの花ほころびツァー」とか岩木山頂が白くなったころ「赤いほっぺの林檎とれたてツァー」があってもよいようにと思う。北の旅行客には南のクニで「収穫作業をちょっとだけ手伝う紀州蜜柑の旅」とか「高知文旦山積みの卸売市場5時集合セリ見学の旅」なんてのが受けるかも、、

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*こごみ(草蘇鉄)130521

青森の道の駅でコゴミの和え物を見付けてちょっと迷った。知らない食べ物には抵抗があるけれど大きなワラビみたいなもので美味い。コゴミのぜんまいが開くと放射状のデザインが生れる。知り合いの陶芸家に写真を見せたら味も形もよく知っていた。この世でいちばん楽な職業はデザイナーかもしれない。スケッチブックを持って野を歩けばパクリの材料は無限に存在するからだ。にもかかわらず東京オリパラのエンブレムで困り果てネットで泥棒するなんて愚かな話だと思う。

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*青森県白神岳の麓十二湖の杜130521

東北の秋は文句なしの錦の絨毯だが春の野山も劣らず美しい。スギとヒノキばかりの四国の山とは違う風景で、額田王の春秋優劣論を蒸し返せば、やっぱり春の方がよいかなと迷ってしまう。誰が言い出したのか知らないが、森林浴という名の緑の温泉で、ほこほこの土を足の裏に感じながら歩くと元気が出る。むかし高知の某町で森林セラピーを売り出した。地元テレビによると医学生を呼んで血液検査だか何だかをやったら森を歩いた後は好ましい数値が見えたという。そんなことあたり前じゃんかと思うのだけれど特に反論する理由もない。

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*青森県西目屋村白神山系の津軽ダム141030

春の津軽富士=岩木山を見ながら岩木川に沿って弘前市を西へ走ると西目屋村に入る。そこにある小振りのダムが目屋ダムだ。ダム湖が手狭になったので、目屋ダムを覆うような大規模ダムが計画され、写真をとった2年後の2016年に津軽ダムが竣工した。そんな事情を何も知らず白神の入口、暗門の滝に向かう途中、突然現れたコンクリート塊が目に入り、おっと要塞かよと驚いた。

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*目屋ダムに覆い被さるように建設される津軽ダム141030

目屋ダムがつくる湖は美山湖と呼ばれたが、1993年に屋久島と並んで白神山系が世界自然遺産に指定されたこともあってか、美山湖の名を廃し、新しいダム湖津軽白神湖と命名された。戦後復興期に計画され、1959年に竣工した目屋ダムは57年後の2016年、津軽ダム竣工と同時に水の底へ消えた。

ダムの寿命は堆砂によって概ね50年と言われる。コンクリートにも寿命があり70~100年で劣化するというから日本のみならず世界中のダムが危険水域に入ったと見て良いだろう。寿命が来たダムをどうするかは悩ましいテーマだが、津軽ダムのように既存のダムを凌ぐ大きさのダムを追加するのもひとつの手ではあるのだろう。ただし当然のことながらダム湖は広がり水没する集落の人々は反発する。

目屋ダム建設に際し、下流域の受益者は水没域の住民の苦難を慮って「コメ一握り運動」を起こした。教師の初任給が1万円ほどの時代に「義援金代わりのコメは金額にしておよそ150万円に上った」という。そのことに心を打たれた移転住民は「津軽平野住民の悲願を達成するために住み慣れた故郷を離れるという苦渋の決断をした」わけだが、今次「一部の住民は津軽ダム建設によって再び移転という苦難を味わうことになる*」Wikipedia

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*目屋ダム→津軽ダム工事を見つめる人141030

巨大工事には受益者と不利益を被る者との争いが付き物だ。ダムの案内板には麗々しく賛辞が並ぶばかり、移転させられる住民に感謝の一言もあってよいはずなのに記述はない。ここは世界自然遺産のブナの森である。大規模工事の負荷は最終弱者の自然に向かう。環境保護のためにあれもしますこれもしますと説明は続くが、そんな巧い話があれば誰も苦労しない。

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*津軽ダムの案内板141030

見たくないものは見ないという思想ないし無言の圧力が担当者の筆を押さえたのだろう。置かれた文字が立ち上がり怪物と化してダムの存在を否定されては困るわけだ。担当者もまた組織の中で仕事をしているわけだから気持は分かるが、良いことだらけの文言がよそよそしい。すべての物事には良い面と悪い面がある。両者を公平に描けばこのような次第だ。あとはあなたの責任でご判断くださいという情緒を排した説明が、ダムのみならず原発にも堂々と置かれるべきだ。

 

180609記