いっぷく7号 200730  室戸の浜木綿 高知商業高校校歌         

 

 

  

 

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今が満開の室戸の浜木綿ハマユウ 200716

 

浜木綿のことを何も知らない人が、道端の白い花に目を留めるかどうか、それを美しいと感じるかどうかはやや疑問が残ります。しかし柿本人麻呂の歌を知っている者なら、花の向こうに歌を思い、歌にこと寄せて花を振り返ることでしょう。

 

       み熊野の浦の浜木綿百重なす

                   心は思へどただに逢はぬかも   柿本人麻呂

 

熊野は今でも神々のふるさとです。その熊野の渚で花びらがもつれて百重に咲く浜木綿のように貴女と別れてきた私は、心が乱れ、逢いたい気持ちを抑えきれない。だけど貴女はいない ☞ 逢いたいよぉ~と叫ぶ、いかにも万葉的、直截簡明な歌い振りです。手紙に添えて百重なす愛をもらった女性がどう応えたかは万葉集に残されていませんが、よほどツンツンした女でないかぎり心は騒いだであろうと思われます。

 

 

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雨上がりの浜木綿 200716

 

長歌を得意とする人麻呂は、遠く離れた妻に向け「玉藻なす寄り寝し妹を露霜の置きてし来れば」長い黒髪が水に靡くように寄り添って寝た妻と別れて来たのだけれど「夏草の思い萎えて偲ふらむ」残された妻は、夏草が日差しを受けて萎れるように嘆いているにちがいない ☞  逢いたいよぉ~ 「妹が門見む靡けこの山」と山川草木を巻き添えに、我が思いよ、届けと命令形で愛を送りました。

 

 

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開き始めた花びら 200716

 

一方、謎の人物でもある柿本人麻呂には島根県、石見の国で刑死したという古代史を揺るがす説もあります。梅原猛「水底の歌」の低音部である柿本人麻呂「刑死説」に従うなら襟を正してこの長歌に向かわねばなりません。

 

挽歌=柩を挽く歌は人麻呂の最も得意とする分野です。歌は文体の音楽であり、その音楽を死を待つ自らのために作ったと仮定し、それを西洋の音楽家に譬えるなら、低音部の重奏で始まるモーツァルトの鎮魂歌が似合うのか、あるいは映画「地獄の黙示録」で使われたワーグナーワルキューレが、死を下した者への怨念さえ伺われ、もっと相応しいのかなと思ったり、、むかし人麻呂のことを考えていた時期があるので空想はとめどもなく広がります(^^!

 

ともあれ柿本人麻呂が冒頭に置いた和歌を詠まなかったら、ぼくは浜木綿の花に気を留めることはなかったでしょう。詩人とは発見者であり、われわれは詩人の発見に気付かされて美しいものに目を向けるとしたものだからです。

 

 

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荒磯に咲く浜木綿 200716

 

昔のことになりますが1994年の甲子園を賭けた決勝でわが母校、高知県宿毛高校が勝ってしまいました。地元は有史以来の大快挙に湧き、費用の件は直ちに片づきましたが、ひとつだけ問題が残りました。宿毛高校は元女子校であり「香りも高く荒磯に浜木綿の花咲くごとく」ゆるいメロディーに乗せられた浜木綿の花がやさしく歌われます。もしも甲子園で一勝すれば日本中に女子校の校歌が流れる。それは闘いを終えたばかりの甲子園に相応しいのだろうか、カッコわるいのではないだろうか、今からでも遅くない新しい校歌に変更してはどうかという情けなくも悲しい議論があったそうです。

 

あくまで私感ながら勝利を告げるサイレンのあと汗まみれの選手が、青空に向け、大声で歌って最高にカッコいいのは高知商業高校の校歌です。

 

鵬程万里果てもなき → 大陸的ホラで綴られた荘子

建依別の益荒男 → 古事記にあらわれた土佐の男ども

フェニキア人 → レバノン杉で商船を造った地中海の民

イギリス人 → 七つの海の支配者

ヘルメス → ギリシャ神話の商の使い

https://www.youtube.com/watch?v=BbIXQmVgwsQ

 

すり鉢一杯の大観衆の前で、涙にむせぶ黄色い声に包まれ、世界の英雄たんをかき集めた校歌が歌える奴は幸せだ。レバノンのゴーンも来て歌え。おれも若い頃そのような熱気に包まれて歌いたかったと戻れぬ過去に思いを馳せるのでした。それはさておき我が母校にはホームランの一本もカッ飛ばし、浜木綿の花咲く元女子校校歌を堂々と歌ってもらいたかったのですが、そう簡単に一勝が得られる場ではないのでした。

 

やっと梅雨が明けました!

被災者また大都市にお住まいの皆さまには

どうか健康にお気をつけください

200730記 つづく