ひとり旅 220331 ロシア編(5 三島由紀夫 日本国憲法前文 豊饒の海

 

 

 

 

 

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三島由紀夫 ネットより

 

忘れもしない1970年11月25日「楯の会」を擁する三島由紀夫陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地のバルコニーに立ち自衛隊員800名の前で「諸君は武士だろ? 自分を否定する憲法をどうして守るんだ!?」と(あえて)肉声で訴え自刃しました。

 

2発の核爆弾で止めを刺された日本国は、占領軍の命ずるまま憲法戦争放棄の条文を盛り込みました。ぼくら戦後世代は「戦力」をもたず「交戦権」を否認した世にも美しい憲法を戴き、敗戦の年から令和4年まで77年間の平和と繁栄を愉しんできました。

 

憲法9条が有効であるのは、憲法前文「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」からに他なりません。「平和を愛する諸国民w」が丸腰の日本人を撃つわけがないという自己中心的な前提によって「われら」は幸せでした。明治元年~昭和20年⇒77年の間に日清・日露・日中・日米(アジア太平洋戦争)とざっくり4度の戦争を挟んだことを思えば、平和ボケと呼ばれながらも「われら」世代は人類の理想を実現したことになります。

 

しかし自分が善意の持ち主だからといって相手も善意の平和主義者でいてくれるかどうかは保障の限りではありません。そもそも平和とは両者の武力が拮抗した状態を指すのであって、世界は悪意に満ちており、力の均衡が崩れたとき戦争がつくられます。そのことをウクライナの「特別軍事作戦」が実証しました。

 

小説家・三島由紀夫

国家の未来を政治的に憂えた結果

自衛隊駐屯地に死の舞台をもとめたのか

それとも小説上の観念世界が肥大し

ついに生死の境を超えてしまったのか

よくわからないところがあります

 

三島由紀夫の辞世の歌2首

益荒男がたばさむ太刀の鞘鳴りに幾とせ耐えて今日の初霜

散るを厭う世にも人にも先駆けて散るこそ花と吹く小夜嵐

 

いかにも三島らしく言葉の扱いは見事なものです。が、深夜の書斎で詠んだのであろう芝居めいた歌いぶりは、国家の未来を政治的に憂えたというより、むしろ三島美学の結末のような気がします。52年前にこの歌を知ったとき、どこか現実感が希薄だなという印象を受けましたが、それは今も変わりません。      

 

生と死の境を膨大な文字でたどった三島由紀夫が、タイムマシンでウクライナの戦場へ降りたと仮定します。戦場の死を舞台のごとくしつらえ、鳴り響く銃声に初霜を重ね、倒れた兵士を散る桜と見立てて歌を詠むかといえば、そうではなく、鉄の破片が肉体を切り裂く現実の描写になるだろうと思われます。

 

ただし三島由紀夫という稀代の美文家にとって

文字で切り拓いた観念世界と目前の現実を天秤にかけたとき

観念世界の方が重かったのではないかと思うことがあります

 

死の前年に出版された「豊饒の海」には、襲撃のあと蜜柑畑を走って逃げた主人公飯沼勲が「空の微光を反映し」黒光りする夜の海の前で自刃する姿が描かれています。

 

   ~ ~ ~

「日の出には遠い。それまで待つことはできない。昇る日輪はなく、気高い松の樹蔭もなく、かがやく海もない。

と勲は思った。

シャツを悉く脱いで半裸になると、却って身がひきしまって、寒さは去った。ズボンを寛げて、腹を出した。小刀を抜いたとき、蜜柑畑のはうで、乱れた足音と叫び声がした。

 「海だ。舟で逃げたにちがいない」

 といふ甲走る声がきこえた。

 勲は深く呼吸をして、左手で腹を撫でると、瞑目して、右手の小刀の刃先をそこへ押しあて、左手の指さきで位置を定め、右腕に力をこめて突っ込んだ。

 正に刀を腹へ突きたてた瞬間、日輪は瞼の裏に赫やくと昇った。」

豊饒の海」第二巻「奔馬」末尾

 ~ ~ ~

 

この世の意味を

自己と世界の二元論で組み立てるなら

世界を否定するために

自己を消すという方法もあります

 

三島由紀夫が市ヶ谷で割腹自殺を遂げたのは

自己を消すことによって世界を消す

平和主義的な世界破壊であったとも考えられます

2022.03.31記 つづく

 

 

 

 

ひとり旅 220327 ロシア編(4 乃木希典 プーチンの特別軍事作戦

 

 

 

 

 

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203高地の攻囲戦 wiki

 

坂の上の雲」に登場する乃木希典は、203高地の攻囲戦において愚将のごとく描かれています。しかし日露戦争で2人の息子を亡くし、明治天皇の大葬礼に合わせて妻静子と共に殉死した乃木希典が、戦場において全くの無能であったのかどうか、そんな男の指令を受けて万を越す兵士が突撃したのかどうか、

 

乃木希典の愚昧な戦いを見かねた児玉源太郎

28センチ榴弾砲他の重砲を投入し

難攻不落の要塞を落としたという異説は

 

「作家の司馬遼太郎が著した小説が初出で世に広まり、以降の日露戦争関連本でも載せられるほどとなった。しかし、司馬作品で発表される以前にはその様な話は出ておらず、一次史料にそれを裏付ける記述も一切存在しない。203高地は児玉が来る前に一度は陥落するほど弱体化しており、再奪還は時間の問題であった」wikiとの記述もあり、史実と空想の狭間でゆれる重要点ではあります。

 

長男と次男を相次いで亡くした乃木が「よく戦死してくれた。これで世間に申し訳が立つ」wikiと述べ、巷間「一人息子と泣いてはすまぬ、二人なくした人もある」という俗謡が流行したことは必ずしもお涙頂戴の作り話とは思われないのです。乃木愚将論が誤りであるとすれば司馬遼太郎による誹謗中傷は、故人の名誉を著しく傷付けたことになります。

 

子息を失い乃木家は断絶しましたが、たまたま友人に外戚の子孫にあたる人がいて時に乃木家秘話を語ってくれます。讃岐の札所に乃木希典の石像があり、その乃木像を見上げ、横の友人を見て顔の輪郭が似ていることを指摘すると彼は何かを思い出したかのように苦笑しました。

 

 

f:id:sakaesukemura:20220327111616j:plain殉死する日の乃木夫妻  ネットより

 

当日の午前中に撮った写真は上記のごとく平静を保っています。夫人のお顔がこわばっているのは、死を確定したことへの怯えかもしれませんが、当時のフィルム感度が鈍く笑顔を保つには長すぎる時間が必要だったからかもしれません。飛ぶ、飲む、吊る、引金を引く、ボタンを押す等自殺の形は様々ですが、しらふで刃を握り自らの腹をかっ割くという恐るべき自決法が、日本以外の国にあるのかどうか、寡聞にしてぼくは知りません。その作法にも各種あるらしく乃木希典は腹を十文字に切り裂く苛烈な自決であり殉死だったそうです。

2022.03.27記 つづく

 

 

 

 

< 追記・2022年の現在史 >

3月23日ゼレンスキー大統領によるオンライン国会演説が行われました。アメリカ議会演説において前後の文脈抜きに真珠湾攻撃をテロリスムと同列に扱ったことへの謝罪はなく、また当初予想された合成開口レーダーのデータを提供せよとの依頼もなく、パンチ力のない演説ではありましたが、おおむね好意的に受け取られたようです。3月24日以来伸び続けた大統領の髭が印象的でした。

 

 

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3月24日ウクライナ軍がロシア軍の揚陸艦を破壊したときの映像

 

3月24日北朝鮮が新型ICBMを発射、71分飛翔したのち日本の排他的経済水域に落下しました。食うや喰わずの貧困国にアメリカまで届く大陸間弾道弾を製造する能力があろうとは思われないので、ロシアないし中国の代理行為と捉えるべきではないでしょうか。ロシアの主敵はNATOの中心にあるアメリカであり、ウクライナ戦争は米ソ冷戦の再来と考えることもできそうです。

 

3月25日「リード米上院軍事委員長は~ ロシア軍が核兵器や生物・化学兵器を使用し、放射線などが北大西洋条約機構NATO)加盟国に飛散すれば、NATOへの攻撃と見なし軍事介入する可能性があるとの見解を示した」(ワシントン共同)

 

3月26日ロシアは軍事戦略を変更し、ウクライナ東部2州に注力すると述べました。ウクライナ軍の反撃を受け後退を強いられたと捉えるのが正解なのでしょうけれど、ロシア軍の不在地にむけ化学兵器生物兵器の使用が可能になるという恐ろしい説もあります。

 

3月27日の日経新聞には「米核使用の厳格化見送り」との記事があります。核使用をにおわすプーチンに対し、場合によればアメリカも使うぞという脅しなのでしょう。ロシア軍が原発の施設にむけて砲撃したことからウクライナ戦争は核爆発と放射能汚染さえ想定される世界大戦の様相を帯びてきました。全人類を人質にプーチン大統領は何を実現しようとしているのか?

 

戦争さえエンターテイメントにしてしまう報道番組では背後の大戦略は見えません。プーチン大統領は何のために「特殊軍事作戦」を始めたのか、最終目的は何なのかと自分なりに探っていますが、虚実おりまぜ無数のニュースが飛び交うなか真相は藪の中です。多種多様なニュースを自分で拾い、自分で編集するほか真実に迫る方法はないのだろうと思います。

 

 

 

ひとり旅 220323 ロシア編(3 伊藤栄樹 人は死んでも生きている

 

 

 

 

 

「人は死ねばゴミになる」という間抜けな標題の本を書いた検事総長がいます。ぼくは火葬、土葬、仏式、神式、無宗教とさまざまな形の葬儀に参列してきましたが、別れの儀式は最善を尽くすのがこの世の決まり、花に包まれた棺を前に参列者は厳粛な振る舞いを求められます。滅びた肉体が「ゴミ」なら焼却場へ送ればよいわけですが、火葬場へ向かうのは肉体がまだ人間であるからでしょう。

 

 

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ひとは、この世とあの世、肉体と霊魂の二元論で語られます。しかるに検事総長ともあろう者が、怪しげな宗教にとりこまれ、ヒトに霊が宿り、肉体を離れた魂が死後も浮遊するなどと考えることには問題があるからかどうか、あるいは職業上みずからの肉体を「ゴミ」という唯物論で縛り、あの世は「ない」とした方が合理的であったからかどうか、伊藤栄検事総長遠藤周作の「眠れぬ夜に読む本」から、死後のもうひとつの世界の存在を示唆したキューブラ・ロス女医の「蘇生者」(医師による死の宣告後、息を吹き返した人たち)の言葉を孫引きし、

 

「キューブラ・ロス女医は『我々に先だって死んだ愛する者と死によって再会できるという希望は、大きな悦びになるはずだ』としておられるが、私には、乱暴な言い方をすれば、死んだ後までこの世を引きずられてはかなわんなあ、という気さえする。キリスト者である遠藤周作氏と無宗教者の朴念仁・私との感覚の差というべきか」 (伊藤栄樹著「人は死ねばゴミになる」新潮社p55)

 

と、生死の堺を明確に分けておられたようですが、なんと浅い人間理解だろうと呆れます。死した肉体が焼却されCO2と化しても、人が生きた記憶は後世に伝わります。肉体は「ゴミ」になっても検事総長の足跡は後輩に引き継がれ、意識として残存するわけだから、人は死んでも生きているのです。そのような意味で「検事総長さん、あんたまだ生きとんのよ、どっかで怪しい思想を吹き込まれたんちゃう?」と申し上げたいわけです。

 

以上、全文通読せずに意見を吐くのは気が引けたので図書館で本を借りて読みました。かつて本屋に積まれた「ゴミ」なる標題を初めて見た瞬間ぼくは目をそむけた記憶をもっていますが、今にしてまじまじと活字を追ったところ「私のがんとの闘い」という副題をもつ本書は、死期を悟った検事総長が、ロッキード事件他の職務上付き合った人々に別れの言葉を述べ、愛する妻への労をねぎらう真摯な書であることが分かりました。

 

伊藤氏は「死んでいく当人は、ゴミに帰するだけだなどとのんきなことをいえるのだが、生きてこの世に残る人たちの立場は、全く別である。僕だって、身近な人、親しい人がなくなれば、ほんとうに悲しく、心から冥福を祈らずにはいられない」(同書p54) とする当たり前の人間感覚の持ち主でした。思いますに「ゴミ」なる標題は、上記引用部の「ゴミ」をヒントにした出版社の創作かも知れません。

 

書いた本人の意図より販路拡大を上位に置く出版業界ではよくあることらしく、とりわけ本屋のビジネス書コーナーには、おっとこれがたまるかというほど下品なテーマが並びますが、手にとって活字を追えば至って真面目な論文であったりします。検事総長さんは、無神論者を装っていますが、そもそも神とは何かとフツーに考えたとき氏にとっての神は、仕事を共有した仲間であったり、優しい妻であったりするのではないでしょうか。

 

プーチンロシア正教の敬虔な信者であり、習近平文革をひきつぐ無神論者です。そもそも神とは何かと誰も見たことのない存在を尋ねたとき議論は永遠につづく他ないので、単純に考えてぼくは、宗教とは神の前に「集まること」だと思っています。集まった人々を集票マシンに転用する独裁国もありますが、集まった人々が謀叛を起こすと大変だから、宗教の教徒であれ、芸能人のファンであれ、ヒトが参集することを禁止する国もあります。コロナは人々の分断をはかる好材料でした。

 

そこへいくと八百万の神々は選び放題、政治的発言をしても当局に睨まれるおそれはなく、若い女性がほろ酔い機嫌で夜の街を歩いてさえ不安がない日本はわるい国ではないと思うのですけれど、甘言を弄して日本を壊そうとする人たちがいることに深い疑念を覚えます。

2022.03.23記 つづく

 

 

 

付記

3月23日現在ウクライナ軍は、当初の劣勢予想をくつがえし開戦後27日間に渡って持ちこたえています。スマホの自撮りやウェブカメラという新手法で撮られた光景がネットを駆けめぐっていますが、所詮はレンズという節穴から覗いた映像にすぎません。強調したいところを局所拡大し、撮り手の意図にない視野は消されるのが報道の限界でもあります。絵と音は伝えても、爆音や震動がヒトの肉体に与える現場の緊張が伝わるかといえば疑問です。だから報道番組は警戒して見るのですが、

 

英語を聞かされても分からないし、芝居がかった日本語のナレーションは鬱陶しいので、音を消し絵だけ見ているとドローンが、Uターンした車を映し出しました。遠方の黒い影の動きだから理由は分かりませんが、乗用車から降りた人物が両手を挙げた瞬間、撃たれ、崩れ落ちました。日本向けの映像なら閲覧注意かカットされる場面でしょう。芝居の演技ではないのでリアルな死が胸に迫ります。

 

3月23日ロシアのノーベル平和賞受賞者ドミトリー・ムラトフ氏が、ノーベル賞のメダルをウクライナ難民のために寄付すると明らかにしました。3月14日にはロシアのニュース番組の生中継中に反戦ポスターを掲げた女性もいます。両者とも自身と家族の危険を省みない行為です。様々な考えの人がいることにホッとします。

 

 

ひとり旅 220317 ロシア編(2 日本海海戦 司馬遼太郎 ゼレンスキー大統領

 

 

 

 

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釜山・対馬・博多 ポスターより2021.10.01

 

13世紀の対馬はモンゴル+高麗軍による元寇の中継地であり、16世紀は豊臣秀吉による朝鮮出兵の足掛かりにされた島であり、19世紀は東郷平八郎バルチック艦隊を待ちかまえた争いの海域であり、21世紀の今は韓国人が涼しい顔で「対馬は韓国のもの」と口にする島でもあります。内陸国の争いは国境線上で起こりますが、日本列島は海が障壁となりました。

 

 

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対馬北部の韓国展望所より釜山方面を見る 

小島の白球は自衛隊のレーダーサイト2021.10.01

 

対馬北部は朝鮮半島からわずか50㎞、釜山の夜景が見える距離にあります。世の中には、がん治療を終えた女性が幅34㎞のドーバー海峡を2往復した記録w!もあるそうなので比田勝・釜山間はその気になれば泳いで渡れるでしょう。

 

 

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Wikiより

 

日清戦争日露戦争とも原因をひとつだけ挙げよと言われたら「朝鮮半島」と応える他ないでしょう。日清戦争朝鮮半島の独立をめぐっての争いであり、日露戦争はロシアの南下を恐れた日本が、緩衝地帯としての朝鮮半島にこだわったことから開戦に至りました。▼その意味で朝鮮半島は、NATOとロシアに挟まれたウクライナに類似します。プーチンの最終目的がどこにあるかは誰も知りませんが、ウクライナが西側に付くとミサイルがモスクワに届くので、それは許せないというのが2月24日に始まる侵攻理由でした。当初キエフは電撃的に陥落するだろうと言われましたが、今日で21日目になります。

 

 

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バルチック艦隊の航路wiki より

 

1904年10月にバルト海を出たバルチック艦隊は、7ヶ月後の5月27日に対馬沖で東郷平八郎率いる連合艦隊と衝突し、歴史的な敗北を喫しました。日本側から見れば大勝利を挙げたわけで、当時タイと日本を除き、白人国の支配を受けていた東洋全域に強い印象を残したことは間違いありません。世界13カ国から集結した観戦武官がロシアの勝利を疑いもせず注視するなか極東の小国が大国を打ち負かしたわけです。

 

 

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バルチック艦隊の予想航路

 

地球の裏側から遠くアフリカ大陸を周り、インド洋、東シナ海を抜けたバルチック艦隊が、日本海へ入る航路は3通りしかありません。宗谷海峡はさておき、津軽海峡を回るか対馬海峡に来るかは、海戦における勝ち負けを超え、日本国の存亡にかかわる大事でした。結果を知る我々は117年前の戦争を読み物として愉しめますが、もしもこの一戦に敗れていたなら大日本帝国制海権を失い、ロシアの占領地となり、ひょっとすると現代のわれわれはロシア語でものを考えていたかもしれません。

 

 

https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005310145_00000

 

NHK for School

さすがNHKよくぞこの映像をと感心させられますが

満洲と言わず中国東北部と呼ぶのはやはり、です

 

 

事の次第は司馬遼太郎が、膨大な文献をさぐり、当時まだ存命していた乗組員に取材して4年がかりで描いた「坂の上の雲」に詳しく、読者は400字詰め原稿用紙換算ざっくり4000枚超の長大な物語にタイムスリップさせられます。

 

その「あとがき」には準備時間が5カ年ほどあったから「私の40代はこの作品の世界を調べたり書いたりすることで消えてしまったといってよく、書き終えたときに、元来感傷を軽蔑する習慣を自分に課しているつもりでありながら、夜中の数時間ぼう然としてしまった。頭の中の夜の闇が深く遠く、その中を蒸気機関車が黒い無数の貨車の列をひきずりつつ轟々と通りすぎて行ったような感じだった」とあります。

 

 

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戦艦三笠 ネットより

 

とりわけ巻末、日本海海戦における感情抜きの記述は、個々の事象が絵コンテのように置かれ、絵が結ばれて映画のごとく動き、よくもこれだけ調べかつ書いたものだと畏れ入ります。著者を突き動かした情念はどこに由来するものだろうと考えたとき司馬という珍しい姓から司馬遷を連想し、紀伝体編年体といった歴史の記述方式が思い浮かびました。

 

歴史とは事実の集積と、それを見る人間との「関係」によって成り立ちます。時系列に沿って事実をならべた学校教科書が正しい歴史を写しているかといえば、そうとも言えず、かといって読みものとしては面白いけれど思い入れが過ぎるようにも見える戦前の教科書を眺めていると、いかがなものかという気はします。歴史は、時間軸に沿う編年体と人間の物語たる紀伝体を重ねて描く他ないのでしょう。

 

坂の上の雲」はすごい本ですが、日本海海戦に先立つ203高地の要塞攻略戦において「感傷を軽蔑する習慣を自分に課している」はずの著者が、冷静さを失ったかのごとく乃木希典を愚将と断じ、罵倒するのは何故か? あたう限り歴史考証し浮かび上がった人間像に命を吹き込むのが歴史小説であるはずなのに、こと乃木希典に関しては論理より感情が先行するような気がしてなりません。

 

 

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ウランバートル 2016.01.01

 

大阪外語大モンゴル語科のOBから届いた年賀状の写真

ウランバートル南のザイサントルゴイから見たボグトハーン山です

宅地開発の並びがふもとまで押し寄せています」とあり

Chinaに隣接するモンゴルもまた

恐ろしい勢いで変容しているようです

 

大阪外語大モンゴル語科に在籍し、戦車兵として満洲へ学徒出陣した司馬遼太郎もまた当然のごとく「何のために死ぬのか」と考えたはずです。鉄の箱とはいえ”ぺらぺらの装甲を突き抜け内部に侵入した砲弾はぐるぐる回って人間ミンチをつくる。自分がそこにいることは余り考えたくなかった”というようなことをどこかに書いていました。それ以前に司馬は昭和の戦争そのものを疑ったようであり、確信がもてない争いに巻き込まれ、死なねばならない不条理に思い悩んだことでしょう。

 

司馬の歴史小説は「明治はよかった。昭和はひどい」という単純な二元論で説明されがちですが、そもそも司馬は昭和の大戦を描いていません。歴史家が現在を描くためには、自身を切り離し、他者として見る目が必要です。が、それは原理的に不可能な作業のはずです。▼ウクライナの現実を芝居がかったナレーションで語る報道番組を見ていると、現場では命のやりとりをしているのに、遠い世界の遊びごとのように見え、平和ボケも極まれりという感があります。音を消し映像だけ注視しているとキャタピラーが外れ、砲塔がふっとんだ映像がありました。日本のテレビは死体を映さないという約束があり、内部は想像する他ないのですが、敵味方を問わず、確信のもてない戦場に放られた人間はやりきれないだろうなと思いますね。

2022.03.17 記 つづく

 

 

 

追記

3月16日米連邦議会でオンライン演説をしたゼレンスキー大統領は「1941年の(日本による)真珠湾攻撃を思い出してほしい。(2001年の)米同時多発テロを思い出してほしい。空からの攻撃で街が戦場になった。私たちはロシアによる空からの攻撃で毎日、毎晩、この3週間、同じことを経験している」と訴えました。2022.03.16毎日新聞

 

真珠湾攻撃」と「米同時多発テロ」を並列した演説を見て、おいおい真珠湾とテロは違うだろ、このノリで日本の国会でも演説したいとは何と浅い歴史認識だろうと呆れました。まあ大統領より取り巻きに問題があったのでしょうけれど、この一報で熱烈にウクライナを支持していた日本人は醒めるやろなと思いました。案の定、書き込みは批判の嵐です。

 

ゼレンスキー大統領は日本の国会でもオンライン演説を求めていますが、請けるかどうかはまだ決まっていません。ぼくは、非はプーチンにありウクライナはむごい犠牲を払わされたと思う者ですが、この世に白黒けじめが付くことは滅多にないので、ほぼ全マスコミが同じ方向で番組を流すことに不気味な思いがしています。

 

 

 

 

 

 

ひとり旅 220312 ロシア編 (1 宗谷岬 オジロワシ 間宮林蔵

 

 

 

 

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北海道 2015.10.10

 

宗谷岬の手前の漁師町に

車を停めて散歩していると

風車の上に鳥の影が見えました

 

 

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 2015.10.10

 

なんとオジロワシがカモメを狙って

空中戦をやっているのでした

その上でカモメの仲間が

「逃げろ~」と鋭い叫び声をあげました

 

 

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 2015.10.10

 

強者と弱者が 

追いつ追われつ

 

 

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2015.10.10

 

まてぃこの野郎とオジロワシ

言ったかどうかは知りませんが

まって喰われるバカはいません

 

 

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2015.10.10

 

直進するオジロワシから

横方向に屈曲したカモメは

すんでの所で逃げ切りました

 

仲間の声援をえて

カモメはがんばりましたが

オジロワシにしてみれば

昼飯を失ってがっかりしたことでしょう

 

地元の方に訊けば

オジロワシの捕食行為は

よく見られる光景だそうですが

必ずしも成功するわけではないようです

 

やる側がドジなのか

やられる側の士気が高いのか

最強捕食者のオジロワシは今

絶命危惧種に指定されています

 

 

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宗谷岬に立つ間宮林蔵 2015.10.10

 

宗谷岬樺太(サハリン)南端は43㎞

対馬北部と朝鮮半島ほどの距離だから

晴れた日には対岸が見えるそうです

 

間宮林蔵って樺太の先が海峡であることを発見したヒトだろ、むかし歴史の先生が何か言ってたなという程度の知識しかぼくにはありませんが、舞鶴から新日本海フェリーで小樽へ渡り、北海道西岸を車中泊しながら最北端の岬にたどり着いた自分は、大刀を帯び、海に向かって睨みを利かす間宮林蔵を見て教科書で習った文字がピンと立ち上がるように思いました。

 

 

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宗谷海峡からオホーツク海方面をにらむ間宮林蔵 2015.10.10

 

1806年、日本との通商を拒絶されたロシア人レザノフは樺太を襲い「米600俵と雑貨を掠奪し11箇所の家を焼き、漁網及び船にも火を放ちwiki」とあります。その翌年「ロシア船2隻が択捉島の西、内保湾に入港し、米、塩、什器、衣服を掠奪して火を放ちwiki」とあり当時から日露の間は樺太択捉島をめぐって利害が対立していたようです。思えば隣接する国々は仲が悪くて当たり前、仲よしなら国を分ける理由はないからです。

 

北方の争いから99年後の1905年

坂の上の雲」を目指す日本は

対馬沖でバルチック艦隊と大海戦を展開します。

 

2022.03.12記 つづく

ひとり旅 220308   プーチンにも言い分は 丸谷元人 オデッサの悲劇

 

 

 

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砲撃されたサボロジエ原発 ネットより

 

ロシア軍が全面侵攻を始めた2月24日からネットに張りつき、3月4日「ウクライナのサボロジエ原発を砲撃した」「爆発したらチェルノブイリの10倍だ」「空間線量が上がった」という一連の報道を見て肝を潰しました。当然のごとく福島第一原子力発電所の悲劇がフラッシュバックしました。

 

はや11年も前の出来事になりましたが、3.11津波後にフクイチから白い煙が上がった映像を見、これで日本は終わりだと腰を抜かす思いでした。やがて東北から西日本に人口が流れる。うちにも泊まってもらおうかなどと無数の想念に襲われたことでした。さいわいサボロジエ原発に大事はなかったようですが、航空機が衝突しても大丈夫なほど頑丈な原子炉も外部電源が止まると施設が水素爆発を起こす現場を見てしまったので、IAEAが「放射能漏れはない」とアナウンスするまでドキドキしました。たまたま大学時代の友人にフクシマ云々のメールを書いている途中で、読み返しもせず送信したメールを開けてみると末尾に「心臓がだいぶ落ち着きました。今は願望でニュースを探しています。信じられません」とありました。

 

プーチンウクライナに侵攻した理由は?  ぼくの知るかぎり多くの識者が、親ロシア派のいるウクライナ東部に入ることはあっても全面侵攻はないだろうと予測していました。が結果として今の状況にあります。アジア太平洋戦争で日本は軍民合わせて300万柱の犠牲を払いましたが、たとえばドイツとロシアの争いはもう一桁多い犠牲者を出しています。人類の歴史は、戦争と平和を繰り返し、ロシアと欧州は血塗られた歴史に覆われています。戦争が避けられぬものなら敵国との間に距離を置くべしと為政者が考えても不思議はありません。ウクライナ侵攻の理由は宿敵「NATOとの緩衝地帯が要る」からでした。とはいえ核大国ロシアを攻めようとする国があろうとは思われませんが、、

 

 

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世界最大の貨物輸送機 アントノフ225  wiki

青と黄はウクライナの国旗色

2022年2月末ロシア軍によって破壊された

 

日本メディアは、英雄ゼレンスキーvs悪党プーチンという単純な二元論を繰り返しますが、いかなる裁判も51対49の争いであるようにプーチンにも言い分はあるはずです。軍事侵攻・核使用は論外として、ゼレンスキー大統領を英雄あつかいする世論は眉に唾して見るべきではないかと思うわけです。欧州の人々にとって極東の国々がもつ微妙な関係式は理解しがたいであろうように日本人にも西側と東側に挟まれたウクライナの事情はよくわかりません。

 

ウクライナ東部には親ロシア派の住民がいます

開戦当初プーチンの言い分は、ロシア語を話し

ロシア国籍をもつ住民に手をさしのべることでした

一方、親ロ派はロシアがウクライナとの対立を煽るため

意図的に送り込んだ人たちだという説もありました

 

国家の内部に深刻な対立をもたない日本人の感覚では

親ロシア派vsウクライナ人という憎しみの構図はわかりません

みんなで仲よく暮らせばよいじゃないかと思うわけですが

それは日本の風土と歴史がつくった特殊な考え方であり

世界スタンダードではないのでしょう

 

プーチンは悪者だ

ロシアよ、崩壊しちまえという

感情論が日本メディアを覆っています

みんなが同じ方向を向くとろくな結果は残りません

 

映像がつくる強烈な印象は

もはや「武器」だという声もあります

戦時のプロパガンダに左右されることなく

むしろメディアは何を語らなかったのかという論点で

ものを考えることも大事ではないでしょうか

下記ご参考になれば幸いです

 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=31xYWAEZLaM

松田政策研究所チャンネル 緊急配信!

『本当は何が起こっているのか!?

ウクライナ危機 現地”生”情報から分析する!』

ゲスト:危機管理コンサルタント丸谷元人

 

現場を歩いた膨大な情報量をもって

ゲストは早口でまくし立てますが

耳を澄ますと目から鱗の話が次々と出てきます

 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=1EZay_KOxJE

Harano Times Official Channel

ウクライナオデッサの悲劇

 

悪の親ロ派vs善のウクライナという図式を

ひっくり返した【閲覧注意】の映像です

メディアが取り憑かれたように流す

ウクライナ被害者論とは逆の悲劇ですが

これもまたひとつの真実なのかなと、、

 2022.03.08記 つづく

 

ひとり旅 220228 番外編 ウクライナのロシア捕虜ビデオ

 

 

 

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ベルリン中心部で行われた抗議デモ

(AP=共同)MSニュースより2022.02.28

 

24日からネットに貼り付いています

記事に置かれた無数の書き込みを読むにつけ

ロシアとウクライナの争いが

台湾尖閣沖縄北海道…につながる

日本の問題として捉えられていることがわかります

 

両国に深くかかわるChinaは

目下のところ立ち位置を明確にしておらず

そのせいか? 過去の事象において

大陸の意志を反映するかのごとく見えた

メディアの方向性が判然としません

 

記事は、ロシアの横暴vsウクライナの反撃

という図式で作られており読者ぼくもまた

ウクライナ頑張れ」という気持ちにさせられます

 

しかし、訳もわからずウクライナに連れてこられたロシアの若い兵士は、肉体の痛みと心の痛みを同時に背負わされて哀れです。このような映像を前にして、ぼくのような者がつぶやく言葉はありません。

 

https://www.youtube.com/watch?v=RfCK9kLNyWE

ウクライナのロシア兵捕虜 2022.02.27

 

2022.02.28記 つづく