海事つれづれ五目めし200516 塩の道5 藻塩焼く

 

 

 

 

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新潟県笹川流れの塩工房「藻塩」の廃材の壁130516

海水の塩分濃度を3%*として灯油のポリタンク20ℓを濃縮すると凡そ600gの塩が取れます。家庭用の風呂桶がざっくり200ℓとしてお風呂で海水浴するには6㎏の塩が要ります。浮き袋がなくても浮いてしまう死海の塩分濃度は何と30%もあるので風呂桶に60㎏の塩をぶちこんだ計算になります。大分県佐伯市の道の駅「やよい」に寄ったとき「死海の湯」を見付けました。これは凄いとまっしぐらに向いましたが、残念ながら入浴日が男女交互に分けられており当日は男子禁制でした。又の機会があれば必ず試します。(*海水の塩分濃度は場所によって異なり3.1~3.8%)

 

中型の寸胴に15ℓほどの水を張り、台所のガスコンロで沸騰させ、短く切った水道のパイプ2000本を曲げる作業をしたことがあります。たかが寸胴の水量でも弱い火力では沸騰させるだけでかなりの時間がかかるのでした。風呂の水200ℓを瞬間湯沸器で43℃に沸かすのは簡単でも、これを蒸発させるとなれば大ごとで、そこから生れた塩をガス代+人件費他を加えて値決めすればえらいことになります。

 

 

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廃材の壁130516

だから塩づくりはいかに効率よく海水を濃縮するかに掛かっており、昔の人は藻(ホンダワラ)を使って「藻塩」を焼き、得られた鹹水カンスイを土器で煮詰めて塩としたようです。

 

実はこの塩の道シリーズは、藤原定家百人一首「焼くや藻塩の身もこがれつつ」をどう解釈したものかと考えているうちにだらだらと長くなった次第ですが、いくらネットを調べても海辺で拾った藻を具体的にどう使い、どういうプロセスを経て塩を作ったかが曖昧です。なんせ昔の話だから証拠ビデオが残っているわけじゃなし、確定したレシピがあるわけでもないから古代版「藻塩」の復元を試みるみなさんは「焼く」という文字にそれぞれの経験を当てはめて愉しんでいるようです。

 

論より証拠、暇ができたら今は裏の渚で寝ているゴムボートに鍋釜積んで離島へ渡り、枯れ木を拾って「塩竈」の煙を立て「浦こぐ舟のつなでかなしも」と洒落込んでみます。声をかけたら乗ってきそうな友人が一人だけいるので仕事が一段落つきアレも落ち着くであろう夏場に挑戦します。ちなみに奴と一緒に宿毛湾から足摺岬をぐるりと廻って観光客には教えたくない美しい渚でコーヒーを飲もうとしたらペットボトルを忘れたことに気付きました。しゃあねえ海水で淹れようってことになり薪を拾って火をおこしフィルターの上から熱海水を落としましたが、塩分3%の珈琲は飲めたものではないです。

 

 

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塩づくりの作業所兼お店130516

さて「藻塩」製塩所では、海水を何らかの形で濃縮した鹹水カンスイを使っているのか、それとも原水をそのまま煮沸させているのかが分からず、ネットを渡り歩きました。下記ビデオに「15時間かけて」とありますから、やはり汲んだ海水をそのまま熱し、塩と苦汁を取りだしているようです。とすれば強い火力と膨大な薪が必要で「藻塩」のおじさんが猫車を押す薪の壁はそのための熱源でしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=IRnh0Hw9mMU

塩の値段はまちまちですが、こんな作り方をしていた日には高くて当たり前、というより塩という単一の言葉をもって古代方式の藻塩、天日塩、煮沸塩、イオン交換膜利用塩、輸入岩塩等を十把一絡げに括ってしまうのは間違いではないかという気もします。 

 

スーパーに並ぶ家庭塩の大半は、メキシコないしオーストラリアの天日塩を輸入し、それを「日本の海水」で溶解し、不純物を取り去ったあと再び結晶させています。台湾ウナギを浜名湖で一週間泳がせたら日本ウナギになるというマジックに似ていますが、今どきの日本には天日が使える広い塩田などどこにもなく、輸入すれば日墨・日濠友好のためにもなるわけだから、いささかの矛盾にこだわっても仕方がないでしょう。その成分はNaCl +諸々のミネラル入りであるところに昔のお塩の美徳が復元されているわけです。

 

それにしてもスーパーに陳列された輸入天日塩改日本産自然塩の値段に目が慣れた人には、「藻塩」や「佐賀」の手作り塩はびっくりするほど高いです。その脇で電気エネルギーを使いイオン交換膜+真空蒸発缶でじゃんじゃん作った日本海水の並塩が1㎏/100円弱という気の毒なほどの安値で売られています。塩の味なんて宣伝文句ほどはっきりわかるものではないので安ければよろしいのかも、しかし、、

 

世の中には不思議な商売が成り立つもので、価格均衡の原則を超越し、値は高いほど売れる。客は待たせるほど喜ぶという常識を逸脱したチャレンジャーが高知県田野町にいます。お会いしたことのない方なのでURLを添付するのは控えますが、ご感心の向きにはネットを探ってください。今日の野菜相場はなんぼやろと細々と農を営む者には俄かに信じられないことですが、1㎏100万円! というこだわりの手作り塩がばんばん売れるらしくバブル時代に戻ったような紹介文が置かれています。日本海水「並塩」製造所の職員が見たらのけ反りそうな話ではありますが、アレでじめじめした世の中に一陣の清風を送ってくれます。塩はいろいろ値段もいろいろでした。(つづく)

200516記