ひとり旅 210106  China12   日本文字から韓国へ

 

 

 

f:id:sakaesukemura:20210106084809j:plain

隠岐新古今和歌集 哀傷歌 210104

 

  たまゆらの露も涙もとどまらず

        なき人恋ゆる宿の秋風 (定家)

 

やがて漢字は原形を留めないほどデフォルメされ、かな、カタカナが発明されました。微妙な感情は文字の持つ音楽性まで引き出し、亡き母をしのぶ玉ゆらの→露→涙とつづく縁語の連鎖が、なみだ→なきと重なる韻のひびきと相まって小さな物語を生み、定家は悲しみを美に昇華させました。母が死んだと言ってしまえば、それだけのことですが、その悲しみを和歌の定型に乗せ、涙の光に秋風を送る高度なワザは定家がつくり上げた美世界でもあります。影印本は隠岐島に配流された後鳥羽上皇が能筆家に書かせたといわれる「隠岐新古今和歌集」です。これ以上美しい文字をぼくは他に知りません。

 

 

f:id:sakaesukemura:20210106084842j:plain

相撲番付表の作成風景  *横浜新生活物語blogより拝借

 

わずかに空白を残した肉厚の書体は

立錐の余地なく客席よ埋まれと願ってのこと

能書家に発注するのかと思っていたら

字のうまい行司さんが担当するのだそうです

 

江戸期には相撲文字、勘亭流(歌舞伎文字)、寄席文字など

様々な書体が開発され今はディスプレイ上のフォントとなって

人の目をたのしませてくれます。

 

そのむかし韓国の友人が「日本人は3つの文字を使い分けている」と教えてくれました。言われてみれば我々は、とりたてて意識することもなく漢字、かな、カタカナに英語やフランス語まで混ぜ込んだ賑やかな文字種を使いこなしているわけです。そのような文字体系が他国にあるのかどうか寡聞にしてぼくは知りません。

 

日本語初学者がやっと平仮名を覚え、さあやるぞと思ったらカタカナもあることに気が付いた。がんばってカタカナを覚えたら今度は漢字の壁にぶつかって投げたという尤もな話があります。アルファベットが26字であることに対し日本語はやたらと字母が多いことも学習者を悩ませる要因でしょう。日本人だって使いこなせる漢字はわずかなもの漢検1級なんてとんでもない世界です。外国人にとって漢字学習は巨大迷路に迷い込んだようなものでしょう。

 

漢字には呉音と漢音の音読みがあり、Chineseも知らない訓読みがあてられ、送り仮名が付され、目から入っても耳から入っても対応可能な言語体系がつくられました。複雑な言語は取っ付きにくい反面、覚えてしまえば表現の幅が広がり、物事を深く理解するためのツールとなります。

 

とはいえ地名人名となると、文法のないジャングルで、前後関係から類推することもできません。とりわけ九州、北海道の地名は謎々みたいなもので、ぼくは大分県安心院(あじむ)の町なかで道に迷い「アンシンインはどこか」と尋ねたことがあります。地理のテストで長万部(おしゃまんべ)火散布(ひちりっぷ)という正解があったとしても北海道に無案内の人には冗談にしか見えないでしょう。

 

イザベラ・バード女史の「朝鮮紀行 Korea and Her Neighbour’s」には日本人よりKorea人の方が外国語の上達が早いという一文があります。ぼくのまわりを見渡しても日本語力ほぼゼロから始め2~3年後には支障なく日常会話をこなせたKoreaの友人が片手の指では折りきれないほどいます。逆に韓国語に挑戦したJapaneseも多くいますが、ひとりの例外を除き、みんな挫折しました。例外のひとりはハングルで書かれた分厚い論文を翻訳してのけ、目から入る文字を頭で理解することには長けていましたが、喋るのも得意かと言えばそうでもなかったですね。話し言葉と書き言葉の間にはよく分からない何かがあるようです。

 

そんなことからイザベラ・バード女史の観察は一面正しいのですが、話し言葉が書き言葉のレベルに進むと日本人と韓国人のどっちが勝つかは分かりません。朝鮮語も日本語も解さないバード女史に書き言葉の文化比較を尋ねても無駄なので、敢えて私見をさらせば、日本人の勝ちでしょう。理由は、ハングルは概ね日本語であり日本人は漢字を知っているからです、といえば怒れるKoreanの猛批判を浴びるにちがいありませんが、事実は事実であり、そこを誤魔化せば話が前に進みません。

 

今次日本大使に任命された姜昌一カンチャンイル氏が大学教授であったころ氏の研究室を訪ねる機会がありました。四方山話の中で「いずれ自分は韓国語を勉強する予定だ。2~3年かければ何とかなるだろう」と言ったところ氏は笑って「半年もあれば大丈夫ですよ」と事もなげに呟きました。そのとき自分は、半年で外国語がマスターできるわけないだろ無責任なヤツと思いましたが、日本に留学し日本語があやつれる氏はむろん日本語と韓国語の秘密の関係を知っていたはずです。

 

たまたま今年、長く無沙汰していた韓国の女性教授から年賀メールが届きました。ソウル大学OBであり同僚でもあった新日本大使に触れ、I hope that he will play a role in ameliorating the relationship between the two nations. とありました。ぎくしゃくする韓日の仲介役になれと願う彼女もまたゼロから始めた日本語学習者です。その返信にぼくは「大きな期待はできないでしょう。政治に翻弄され人の心は深く傷ついたからです」と書きました。その辺りの微妙ないきさつを短く書くことはできないので、いずれページを改めて考える予定です。

210106記 つづく

 

 

 

    # # # Koreaあちこち # # #

 

f:id:sakaesukemura:20210106084914j:plain

ソウルの真んなか崇礼門190821

韓国の若い子はこの漢字が読めるのだろうか?

 

 

f:id:sakaesukemura:20210106084934j:plain

崇礼門の天井に描かれたKoreaドラゴン190821

爪は4本⇒日本は3本 (^^!

 

 

 

 

 

 

f:id:sakaesukemura:20210106085011j:plain

清渓川チンゲチョン190821

 

2005年ソウルの真ん中に現れた人工河川です。どうしてもこの川を見たいと言ったら友人が案内してくれました。歩く道々うれしそうに「ヘビが出た」と言うから「?そりゃ大変だ」とテキトーに話を合わせているとヘビではなくてエビのことでした。かつてここは暗渠であり下水道でしたが、李明博ソウル市長のきもいりで清流に生まれ変わり今やソウル一番の観光スポットです。

 

長く日韓交流の裏方をしてきたぼくの夢は、日本になくて韓国にある美しいものを探すことでした。散々歩いて見付けたのが伝統建築の壁と煙突、道のつくり、川の護岸工事でした。とりわけこの清渓川は、都市の真ん中に水と緑を出現させた意表を突く設計であり、市民の称賛を得たソウル市長は大統領になりました。が、やがて誰に訊いても問題のある四大河川工事をやってのけ、竹島へ上り、驚くべき天皇発言をし、今は獄中にいます。イザベラ・バード女史がタイムマシンで降りてきたら多くの言葉を残すことでしょう。

 

 

    # # #アメリカの今# # #

日本時間の1月7日は米大統領の確定日です

どちらが勝つかということより

日本にも大きな影響を与える

歴史の岐路として注目しています