日本ところどころ⑰ 土佐の沿岸 年寄りの、、パラグライダー

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仁淀川河口 140712

陽が昇って山の斜面が暖められると上昇風(サーマル)が生れる。その風をうけて翼(キャノピー)を膨らませ、断崖絶壁の海鳥よろしく急斜面から空へ飛び出すパラグライダー基地が土佐市石土ノ森にある。大会時には青空に色とりどりの翼が浮かぶ。

翼の上を流れる気流と下を流れる気流の気圧差によって↑ベクトルの揚力が生れ、↓ベクトルの重力とのバランスの中でパラグライダーは滑空する。降りるだけの落下傘とちがい、パラグライダーの翼が横長の形状をしているのは、要するに飛行機の翼と同じ原理だからである。

鳥が風を受けて空中で停止し前進できるのは羽で風を切り、揚力を得るからだ。発艦前の戦闘機を載せた空母が風上にむけて全速で航行するのも、ヨットやウィンドサーフィンが角度を付けながら風上に進むのも同じ原理なのだと積年の謎がぱらぱらと解け、地震や火山の背後にプレートテクトニクスがあることを知ったときのように感動した。

トンビが高い所でゆっくり廻るように上昇風に乗ったパラグライダーはのんびり空に浮かぶ。しかし日が落ち大地が冷えて風が下降気流に転換すると、みずから推力を持たないハングライダーは墜ちてしまう。

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それでは面白くないからプロペラを回して強引に進めというのがモーターパラグライダーだ。これなら燃料が尽きるまで飛べる。ただし推力があるからといって、どこからでも飛び出せるものではない。一定の広さがあり、ほどよい風が吹き、近場に電線がなく、うるさいことを言う行政も警察もいないという難しい条件をクリアできる場は滅多にないそうだ。土佐市仁淀川河口はモーターパラで遊べる条件を全て満たす稀少な場らしく、岡山ナンバーの車も見かけた。

f:id:sakaesukemura:20190616035528j:plain海風を受け

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翼が浮いたところで、

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回れ右

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海に向かってテイクオフ!

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自分もこの位置からの眺めを体験してみたいのだがカネと勇気がない。いつかどこかでお試し料金を払い、まずは膝に乗っけてもらおうかと、、

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飛んだのはお母さん
お洒落なお嬢ちゃんも両手を広げて→Go!
やれ肖像権だ個人情報だと難しい時代なのでネットの写真には非常に気をつかうが、この子はほんとに可愛かった。とても気に入った一枚なので無許可掲載をご容赦くださいな。

f:id:sakaesukemura:20190616035720j:plainお次はお父さん

f:id:sakaesukemura:20190616035739j:plainちなみにこの子のご両親は車に機材を載せて岡山から来たパラファンだった。海岸沿いを桂浜方面から戻ってきた旦那さんは、あのでかい坂本龍馬銅像の前で竜馬と目線を合わせて写真を撮ったという。「この位置からの写真ってないんですよね」とつぶやいていたから映像の仕事をしている人かもしれない。雑談の後でアドレスを聞き写真を送ったら喜んでくれた。

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隣にいた人が「あの方にはカメラを向けないでください」と言う。肖像権の問題かなと思ったら、このおっさんは観客を意識すると派手なパフォーマンスを披露して危ないからだそうである。

f:id:sakaesukemura:20190616035823j:plain「危ない」とは何かと考えながらカメラを向けると翼が傾いた。派手に舞ってくれると撮り手は嬉しいが、この角度で体を左右に振って失速したらどうなるのだろう? 徒然草に似たような話があるのだが、ひょっと渚に水着姿の女性が見えたりすると神通力を失って墜落するかもしれない。

かように豊かな人生を送る趣味人たちは普段なにをしているのだろうと思い、簡易テントに椅子を並べて談笑するおっさんたちに混じり込んだ。河口周辺は施設園芸が盛んな土地で趣味仲間は農業をしているそうだ。土地柄ビニールハウスで茄子や胡瓜を作っているのだろう。ウチはトマトだから同業者だ。

夏目漱石によると初めてナマコを喰った人間は「偉大なり」とある。モーターパラにおいても勇気ある一人が決死の覚悟で空に舞い、やがて弟子が生れ、孫弟子が続いて仲間が増えたのだろう。岡山のご夫妻もここでワザを伝授してもらったそうだ。地元民は全員が60代から始めたという。どうやら「カメラを向けると危ない」おっさん(ないしぢっさま)が親分らしく、歳のころは70代という。7月は野菜の端境期で農閑期にあたる。こんな仲間とテントの日陰でだらだらと趣味の話ができるなんてつくづく羨ましい。


180813記


追伸
けっこう笑えるビデオを載せたのですが、なぜか動きません。
どうやったらアップできるのでしょうね?