ひとり旅 230917 日本所々(27) 核廃物 原発 原爆 水爆 EMP MAD

 

 

 

 

上関町 右端が中間貯蔵検討地  2023.08.27

 

高レベル放射性廃棄物最終処分場建設のための文献調査が

北海道泊原発を挟む寿都町神恵内村で始まり、つづく

山口県四代町では島根原発核廃物の中間貯蔵施設調査を受け入れました

自分の町に核の集積所が欲しいヒトはいないので

得るものと失うものを天秤にかけての決断だったはずです

 

国のため

かつて高知県旧東津野村が高レベル放射性「廃棄物*」の地下埋設施設を誘致したとき村会議員は「国のため」を強調しました。一方、当時の高知県知事橋本大二郎氏は「それほど国のことを思うのであればカネの話はするな」と一蹴し議論は終わりました。磨き抜かれた政治の言葉を見、いやあカッコええなあと感動したことですが、今にして思えば議論の本質をクニとカネの二元論にもちこみ、カネの弱みを曝露して誘致を拒否したのは、高知県民としては有り難いことでしたが、それで核廃物の処理ができたわけでもなければ、クニのためというロジックが消えたわけでもありません。

 

放射性物質は「廃棄*」できないので

高木仁三郎氏は「核廃物」と呼びました

ましてや核の「ゴミ」だなんて

生活ゴミではあるまいに

まやかし以外の何ものでもありません

以下核廃物と記します

 

原発は理念的に正論ですが、すでに在る核廃物*はどこかに置かねばなりません。太陽に打ち込む。プレートに潜り込ませるというのは悪い冗談として、シベリアの永久凍土に置かせてもらえという提案がありました。安倍晋三元首相とプーチン大統領の蜜月時代にひょっとしてという期待をもたせましたが、今となっては実用的な話ではありません。モンゴルの堅い岩盤に寝かせようという密約?もありましたが、2011年5月9日、毎日新聞が一面で「日米が核処分場極秘計画」「モンゴルに建設」とスクープしたあと立ち消えになりました。むろん核廃物を他国に置くのは問題ですが、世の中には正論で語れない事柄もあるわけで、(対案をもたずして)国家間の密かな約束事を公開した新聞とは何かと考え込みました。

 

先日、高知市で行われた核関連の説明会場で

「核廃物を外国に置かせてもらう案はあるのか?」

と問うたところ「ない」との回答をいただきました

核廃物は自国で管理するのが原則だそうです

 

自国の核廃物は自国で処理せよというのが世界のルールだから、いずれ日本列島のどこかに置かねばならない。だから万やむを得ずわが町わが村へという「国のため」論が消えたわけではありません。ただし交換条件はありますよというのが今の段階です。

 

カネ

カネといえば俗な話に落されがちですが、カネは生きる手だてであり、きれいも汚いもありません。核廃物の危険性また風評被害と引き換えに土地住民が国(税金)から生きる手だてを得ることは当然のことです。だから誘致するかぎりカネの話はせねばならず、拒否するのであれば請け負った別地域に対し倫理的な負目を感じざるを得ません。

 

原発事故

その負目は税で支払うことになりますが、そのさい該当の自治体だけに払うのか、それとも隣接自治体にも払うのか、グレイゾーンのどこで線引きするのかという難題が発生します。フクシマの現場を歩くと残留放射線量は同等であるにもかかわらず道路を隔てて保障金を貰った地区、貰えなかった地区に別れます。行政はどこかで線引きせねばならないわけですが、悪いことは何もしていないのに、暮らしの場を追われ、補償金も手にできなかった住民はやり切れないでしょう。

 

核兵器

元はといえば原子力発電所は核爆弾の製造装置でした。濃縮ウランないしプルトニウムをつくる過程で電気を取れることが分かり、原子力の平和利用という美しい名が被せられたわけですが、一方で手に負えないほどの放射性物質が蓄積されます。NHKの超望遠レンズがフクイチの白煙を捉えたときぼくはテレビの前で腰を抜かす思いでした。

 

 

ニューメキシコ州で行われた世界初の核実験「トリニティ実験」のキノコ雲

 

核実験

1945年7月16日ニューメキシコ州で核実験が行われました。同年8月6日にヒロシマ、9日にナガサキと続き、冷戦期の米ソあわせて2000回ほど核実験が行われたというから…言葉はありません。核実験は基本的に自国で行うので歴史初の被爆国はアメリカであり、核の最大被曝国はアメリカと旧ソ連であったと言えます。つづく英仏を加えて南太平洋は核実験場と化し、1964年に中国が砂漠で核実験を行ったとき小学生のぼくは「雨に濡れると頭が禿げるぞ」と脅されたことを覚えています。アメとハゲの因果関係はよく分からなかったのですが、何やら恐ろしいことが行われているという実感はありました。

 

水爆

核爆弾を起爆剤として核融合を起こすのが水素爆弾であり、その桁外れの爆発力は申すまでもありません。火薬の爆発にはどこか心ときめくものを感じますが、核・水爆となると話は別でYouTubeで流される映像には妖気が漂います。

 

EMP

核開発を争った時代には、地下地上、海中空中、宇宙空間すべての場で核実験が行われました。1962年にアメリカが「ヒロシマの500倍の威力をもつ水爆」を高度400㎞の太平洋上空で爆発させたとき「爆発に伴う電磁パルスの影響で、ハワイのラジオ局は機能不全に陥り、緊急サイレンが鳴り、街灯が消える騒ぎに」なりました。初めてEMP=電磁パルスの存在が確認された日の出来事です。

 

1983年の映画「ザデイアフター」には米国上空で核爆発があった後バイクのエンジンが掛からない一幕がありました。プラグをスパークさせる電子装置に過電流が流れ不具合が起こったからでしょう。21世紀の今は民製品のあらゆる部分に半導体が使われており、都市上空で核爆発が起こったらどうなるかは少し想像力を働かせば分かります。ヨーロッパの上空で核爆発を起こせば欧州全域の電子装置が不能になるとも言われます。

 

MAD

核戦争には相互確証破壊という考え方があります。Mutual Assured Destruction 略して気違いという覚えやすい英語であり、やったらやり返されるからやらないという武力均衡による平和維持の方法です。逆にいえば相互の戦力バランスが崩れたとき戦争が起こります。ウクライナの泥沼に引き込まれたプーチン大統領は核使用をほのめかすに至りましたが、もしもソ連崩壊後ウクライナが核爆弾1000発をロシアに移動させず、今でも核保有していたとすればウロ戦争は起こらなかったでしょう。

 

抑止力

ウクライナは核を持たず、NATOの一員でもないので、ロシアが侵攻しても核による反撃は想定されません。しかしウクライナNATOの一員であったとすれば、ロシアの核使用に対しNATOは核で反撃することになるから、プーチンは核のブラフを使えないはずです。それなりの教養人でもあるらしいプーチン大統領が、キーウと引き換えにモスクワを破滅させることはないでしょう。米、英、仏、印、中、朝、パキスタンイスラエル、においても核は無言の威嚇兵器にすぎません。(南アは核兵器を放棄しました)

2023.09.17記 つづく